第17話


         ※


《ビンゴ!》


 約三十分後。サオリの陽気な声が、ダブル・ショットのコクピットに響き渡った。


「サオリ、見つかったのか、ジャンク屋は?」

《モチのロン! あたしにかかればこんな違法ジャンク屋、すぐに見つかるわ!》

「違法?」


 俺が首を傾げると、ハヤタが『どういう意味だ?』と割り込んできた。


《えーっとね、店の名前は出してないけど、通称『アラモ』っていうらしいわ。ここから北に二キロってところね。軍や警察で使われなくなった火器を安値で買い取って、そこに地下加工して横流ししてるみたい。地下街への入り口があるから、そこから行けると思うわ》

《詳細な情報が欲しい。サオリ、もう少し調べを入れてみてくれ》

《分かったわ、ダーリン!》


 だからどうしてそんなに仲がいいんだっつーの。ハヤタもサオリも。

 ふと、俺は自分がクランベリーと並んで立っているところを想像した。それから談笑しているところや一緒に食事をしているところ、それに手を繋いでいるところなど――。


「だから何でだよ!」

《どうした、カイル?》

「ぐっ!」


 突然のハヤタのツッコミに、俺は息を詰まらせた。


「なっ、何でもない! サオリ、クランベリーの容態は?」

《私なら平気ですって、カイル先輩! もう血も止まりましたから!》


 やたらと元気な声音に、俺はスピーカーの音量を下げながら『分かった分かった!』と応じた。

 だが待てよ? いくら軽傷とはいえ、彼女は銃撃を受けたのだ。そんなにすぐに止血できるものだろうか?


 いや、今考えるべきことは他にある。誰がアラモに向かうべきか、ということだ。

 俺がこの疑問を提示すると、すぐにハヤタが応答した。


《カイル、お前がいいんじゃないか?》

「俺? ああ、構わねえけど、どうしてだ?」

《敵が何者かは分からんが、妨害電波の利用に長けているのは事実だ。そんな時、電磁砲しか武器がないダブル・ショットでは戦えないだろう?》

「サムライだって電磁サーベル使えねえじゃん」

《サーベル抜きでも、機動性はこちらの方が上だ。戦いようはある。蚊を叩き落すみたいにな》


 ふむ。確かにハヤタの言う通りだ。しかし、それでも問題が一つある。

 こうした活動の際は、二人一組で行動するものだ。だが今この場でSCRを、二機共パイロット不在のまま放り出していくわけにはいかない。つまり、俺一人でアラモとかいう店に行かなければならない、ということだ。


 俺はダブル・ショットをしゃがみ込ませ、地面に降り立った。陽光は既に橙色に変わりつつある。

 その中で、鈍く光る拳銃二丁をホルスターに、短刀を足首に装備していることを確認し、通信端末を常時通話状態に設定して、俺は市街地へと足を踏み出した。端末に吹き込む。


「いざって時は救援頼むぜ」

《へいへい》


 からりと晴れた、大西洋岸の白亜の街並みを行く。季節外れではあるが、俺はジャケットを羽織って拳銃を隠して歩いていた。賞金稼ぎが時折やってくるこの街では、不審人物がいても、それを通報する市民はいない。

 報復を恐れて、というよりは慣れてしまっている、と言った方がいいかもしれない。職務質問されない程度の格好で出歩ければ、問題はないはずだ。


 そこまで思考を泳がせた時、不意にその流れが止まった。察したのだ。後をつけられていることに。


 俺は追跡者に悟られないよう、一定のリズムで通信端末を叩いた。『追跡者あり・一人で何とかする』といった内容だ。端末の向こうでは、誰も声を上げない。

 俺は日陰を歩き、汗をかかないように努めた。緊張していることがバレたら、追跡者は俺に気づかれたということを知り、この場で射殺しようとするかもしれない。

 背後を取られている以上、俺は圧倒的に不利だ。


 その時、何やら賑やかなざわめきが、前方から近づいてきた。


「はいはい皆さ~ん、ここで本場の地中海料理が味わえま~す! お店に入る前に、はぐれた人がいないか確認しま~す! 呼ばれたら返事してくださいね~!」


 ついてるな、と俺は思った。一旦この旅行者の一団とすれ違い、すぐに靴紐を結ぶふりをすれば、追跡者の目を誤魔化せる。その間に、短刀を足首から抜いておくのだ。


 俺は建物沿いに寄った。そしてすっとしゃがみ込み、短刀の柄を握り込む。楽し気な喧噪の向こうから、追跡者の戸惑う気配がする。やがて、観光客たちが店に入っていき、俺と追跡者だけが取り残される。

 今だ。


 身を引くくしたまま、俺は身体を捻り、追跡者と対峙した。といっても、それは一瞬のこと。相手が拳銃を抜く前に、俺は接敵し、右手で刃を相手の首筋に当てていた。


「ひっ!」


 短い悲鳴を上げる追跡者。恰幅のいい体格で、黒っぽい服装をしている。俺と同様にジャケットを羽織っていたが、せっかくの拳銃を取り落としてしまった。

 俺は左の掌を勢いよく突き出し、相手の胸の中央を強打。追跡者は呆気なく尻餅をついた。


「てめえ、どこの組織の――」


 と言いかけて、俺は目を見開いた。目の前で恐怖に目を見開いているのは、あのアルバ・ブルードだったのだ。


         ※


 俺は慌てて周囲を見渡した。こいつの仲間がいるかもしれない。それこそ、あのジードとかいう相棒が。その時は、アルバを人質、というか盾にして逃れるしかない。

 とにかく、俺たちがアラモへ行こうとしていることを確かめたがっている連中がいる、ということは事実だ。


 俺はアルバの出っ張った腹に軽く膝蹴りを見舞い、地面に膝を着かせた。『ぐえっ』という蛙の悲鳴のようなものが聞こえたが、気にしない。


「アルバ、お前はこの前、アステロイド・ベルト近傍の軍事衛星奪還作戦の場にいたな? そしてクランベリーを人質に取って、俺たちを公安局のいいようにさせた」

「そ、そそ、そうだ! あの時は悪かった!」

「認めるんだな? 自分が公安局の犬だってことを?」

「み、認める認める! けど、そ、それは正確じゃない!」


 俺はナイフをぴくりとも動かさずに、左右に目を走らせながら『どういう意味だ?』と問うた。一般人にこの現場を見られるのはマズい。俺は一度、アルバをぶん殴って転倒させ、その隙に短刀を戻し、拳銃を抜いた。


「さっさと立て、アルバ。俺から見て左側を歩け。このまま裏路地に入る。話はそれからだ」


 俺は通信端末が、沈黙しながらも起動中であることを確認し、アルバの脇腹に右手の拳銃を押し当てた。前後からはジャケットに隠れて見えないはずだ。そのまま、ひそひそ声で俺は繰り返した。


「お前は公安に尻尾振ってるんじゃなかったのか?」

「ち、違う! 特別な報奨金が出るから汚れ仕事をやらないか、っていう、公安直属のメッセージを受信したんだ!」


 それで、この地球くんだりまでやって来て、俺たちを襲うタイミングを計っていた、というわけか。

 そして今、俺に返り討ちにされて、トカゲの尻尾切りという不遇な目に遭っている。ご愁傷様としか言いようがないな。別に、俺にアルバを殺す気はないが。


「じゃあ、黒幕は公安なんだな。でもあれだけデカい組織だ、本当に裏で糸を引いてる奴は分からねえか」

「し、知らねえ! 俺、知らねえんだよう……」


 今までは喧嘩ばかりしていた俺とアルバ。だが、銃を向け合ったことはなかった。それは立派な犯罪だからだ。今のところは、俺の正当防衛ということで、ハヤタたちに上手く話をまとめてもらうしかない。

 また、公安がアルバを雇ったのも偶然ではあるまい。コイツなら、俺たちの行動を予測しやすいと思われていたのだ。事実、こうしてアルバは地球の、それもモロッコにいた。

 DFが、他の船舶に接触しないような軌道を取って地球に降下したにも関わらず、だ。まあ、マスコミに待ち伏せされずに済ませるため、というのが元々の目的だったわけだが。


 しかし、これで黒幕も、いよいよマスコミ対策を強いられることになったな。賞金稼ぎとはいえ、俺たちは犯罪人ではない。それをドローンで攻撃したり、アルバという刺客を送り込んだりしたのだから。


 俺の考えをDFの皆が共有していることは、端末の向こうの沈黙から察せられた。俺が無事であることも分かっているだろう。さて、あとは敵陣に斬り込むまで。


「ついて来てもらうぞ、アルバ。俺はお前を人質に、アラモとやらがどんなドローンを作っているのかを見させてもらう。誰の差し金か、ってこともな」

「わ、分かった! 分かったからもう拳銃は仕舞って……」


 俺はカチリ、と撃鉄を起こした。


「ひっ!」

「まあ、てめえがビビッて小便引っかけねえうちは撃たないでやるよ」


 アラモの場所は分かっている。アルバに危険な場所へ誘導される恐れはない。

 俺はアルバの肩を叩き、斜め前方を歩かせるようにして、歩道を進んでいった。

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