第3話「見つかる私」
「よう、かわいこちゃん。俺と遊ばね?」
そう言って優は、少女へと歩みを寄せる。ジャブのつもりで放った言葉に、俯いていた少女はこちらに目を向け、
「……」
無反応だった。こちらを見つめる目には覇気がなく、無感情というよりは、なんだか億劫そうな印象を受ける。
これであわよくば怖がって自分の家に逃げ帰ってくれたらいいと思っていたのだが、まさかの無反応に優は眉を寄せた。
これはだいぶ根が深そうだ、と。
「……まぁ飲めよ、寒いだろ」
差し出すのは念のために自販機で買っておいた温かいココア。彼女の服装は確か数駅ほど離れた高校の制服のはずだが……コートのような上着も着ず、ストッキングを穿いているとはいえスカート姿だった。見ているこっちが凍えそうだ。
ほれ、と目の前で缶を揺らすが、少女は目を閉じて小さく首を横に振るだけだった。
その仕草は、なんだか少女の年齢には似つかわしくないほど大人びており、そのアンバランスさは同時にどこか諦めのようなものを感じさせた。
その仕草をじっと見て鋭く目を細めた優は、
「ほれっ」
缶を少女に向かって放り投げた。
いきなりの所業に驚き、目を見開いた少女は、わたわたと慌てて缶をギリギリでキャッチした。ほっ、と息をついた後、思い出したように非難がましい目を優に向けた。
ようやく年相応の反応を示した少女に満足を覚え、優はケラケラ笑いながら遠慮なく隣のブランコに腰かけた。
じっとりとした視線を送ってくる少女を横目で見ながら、優は二本目の缶ビールを開けた。
「ほんで、こんなとこでなにしてんだ?いい子はもう寝る時間だぞ」
片手にビールというおよそ相談事とは無縁のスタイルで話を切り出した優に、少女は面食らったように見つめ返す。
「……」
少女は当たり前のように、目の前の男に戸惑っていた。いきなりチャラく声をかけてきたかと思えば、缶を投げて寄越し、今は気楽な様子でビールを飲んでいる。
その能天気な姿を見て多少苛つきを感じると同時に、なんだか……元々無かった力が更に抜けていくのを少女は感じた。
ひとつため息を吐き、少女は優に向かって……、
「……」
「いやしゃべらんのかい」
なにも言わない。その代わり少女は手を動かした。
指を自分の喉に向けて指し、その後小さくバッテンを作る。そして首を横に振る。
それだけで、優は少女が陥っている一部の状況を把握した。把握せざるを得なかった。
なるほどこれは……根が深そうだ。
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