第2話「見つけるあなた」

 十二月に入り、暖房を入れなければやっていられない季節になった。

 いつものように仕事をこなし、帰宅して酒を飲みながら明日の資料を作成する。

 代わり映えのしない毎日に苦笑を漏らしながら、三十路間近の男……新藤優は休憩もかねてマンションのベランダに出た。

 酒が回り、火照った体に冬の空気は心地よい。

 ゴミゴミした街の中心から離れた住宅街は、いつもよりさらに静寂に包まれている。

 休日には近所の子供たちが遊びに来る目の前にある公園も、寂しげに風に吹かれていた。


 そこで……ふと目にとまるものがあった。

 出歩けば補導されるような時間、ブランコに誰かが腰かけている。

 たぶん……女の子だ。表情は俯いて垂れた髪に隠れてよく見えないが、少なくとも楽しく遊んでいるようには見えない。

 しばらく少女を観察する。俯いたまま動く気配が全くなく、誰かを待っている様子もない。


「……」


 優は最後に残った一口を一気に煽ってから、まだ仕事着だったスーツの上着を手に取った。

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