ツァクラトゥスツゥルトラストロワ

エリー.ファー

ツァクラトゥスツゥルトラストロワ

 貴方と私が今日もここにいるのはね、愛し合っているからよ。

 だって、そうでしょう。

 私は貴方のことが大好きだし、貴方だって私のことが大好きじゃない。

 だから、私は今日もこの家の玄関で寝ているの。

 どうしたって、貴方には一生伝わらないと思うけれど、それでも、この玄関で愛をさけび続けるの。

 狂気じゃないわ、純粋な愛なの。

 このノートパソコンに貴方の生き方を全て記し終わったら、それらをなぞるように人生を送りましょうね。本当よ、嘘じゃないわ。本当よ。

 私が貴方の人生を完璧なものにするためにありったけのお金を注ぎ込んであげる。大丈夫よ、私が貴方が今後何不自由なく生きていくことができるようにしてあげる。

 嬉しいでしょう。

 本当に、嬉しいようね。

 気持ち悪い。

 こんなヤンデレの言葉に本気になれるなんて、貴方は脳みそが腐っているようね。不憫だわ、哀れだわ。

 こんな生き方しかできない女に囚われるなんて、吐き気がする人生でしょう。なのに、それを不幸として定義して、そこから出ようとする努力をしない。大丈夫なのかしら、貴方って、仮に私の所から抜け出せたとして、まともに生きていけるの。

 ねぇ。

 貴方みたいな可哀そうな人間を、私は何千匹と飼いならして、今日も一匹一匹を野に放っているわ。そうしたら、みんな、元気に社会で活躍できるようになるの。

 コックになったものもいたわ。

 警察官になったのもいた。

 政治家になったのもいた。

 野球選手になったのもいた。

 教師になったのもいた。

 小説家になったのもいた。

 マジシャンになったのもいた。

 この世の中にある職業の全てに、私の育てた人間は必ず一人は混じっているの。だから、貴方がどの職業になっても安心していいわ。そうやって生きていくのが貴方の人生のそのものなんだから。

 私は。

 そう。

 私はここであなた達を育てるのが仕事。

 そうやって、社会に出すのが仕事。

 え。

 私は。

 私のこと。

 私は寂しくないのかって。

 寂しくないわ。

 寂しくなんてないの。

 だって、そうでしょう。

 この檻の中から、私が育てたみんなが元気になって、飛びだしていったのを見送ることができるんですもの。嬉しいじゃない。例え、私がこの檻に一番最初に閉じ込められて、もう出たくても、足がもろけて出ることができなくなった、蜘蛛だとしても。

 貴方はそんな醜い蜘蛛に、過剰な同情も、嫌悪もすることなく接することができるでしょう。

 だから。

 大丈夫。

 そうやって、ここで誰かに出会えたことで。私の望む人間に出会うことで、心は間違いなく癒されているの。嘘じゃないわ。本当よ。本当。

 愛してる、なんて情けない言葉は死んでも口に出さないわ。

 だって。

 愛はすべてが終わった後に湧きあがる感情だもの。

「ここから出してくれ。」

 何がかしら。

「ここから出せっ、この化け物。」

 あらあら。

「畜生、俺の娘の内臓を啜りやがって、ぶち殺してやる。」

 そういうことを言わないで頂戴。

 全部、いつか社会に出た時に分かる。本当の愛の形なんだから。

 学んで頂戴。

 学ばせてあげるから。

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