第58話 囚われた三国昌芳

 さて、ここで一度整理をしましょう。


 私達は今夏休みの期間を利用して旅行に来ています。


 目的は勿論、三国さんとイチャつく為です、それを真っ先に行動に移したのは上尾藍先生こと豊中黒芽さんでした。


 彼女は三国さんへの好意が並外れています、情けない話ですが、ここにいる誰もがその愛の深さには太刀打ちは出来ないでしょう、歪んではいますが。


 しかしながら、そこに負けじと現れたのが山中棗さんと川西凜華さんです。


 どうやら彼女達は豊中さんの強大さを理解しているようで、恋敵でありながらも結託することで豊中さんの打倒を目論んでいます。


 ただ私の暗躍もあり豊中さんの足取りを掴めない(ああ因みに三国さんのスマートフォンのブロックは先程の騒乱時に全て解除しておきました)、そこで細い糸を手繰り寄せあろうことか一回り上の私に脅しをかけてきたのです。


 何とも肝が据わっている方達です。ですが私もいつ豊中さんから手を切られるか分からない状況であったが故、これは好機と手を組むことに。


 結果として、それは一層の混迷を極めた訳ですが、お陰で豊中さんの身動きを最小限に抑えることには成功致しました。


 懸念があるとすれば、これを踏まえて豊中さんがどのタイミングで出し抜けをするかなのですが……しかしそれは全員が同じ考えでしょう。


 なので、これから起こるのはまだまだ余興でしかありません。


 では現場へとお返しします。


       ◯


「まだ旅行先に来て数時間しか経っていないのに、この疲労感は……」


 俺はリビングにある5~6人は十分に座ることの出来るソファーに一人凭れ掛かると小さく呟いた。


 当然ながらその理由は分かっている。見えない所で着々と動き始めている物事に、神経をとがらせずにはいられないからだ。


「温泉ってもっと気楽な筈だよな……」


 無論、俺は反対はしたのである。


 いくら川西の家に温泉が引いてあって、完全プライベートであり、しかも大きめな露天風呂だったとしても、そこに男女が入り乱れるのは節操がないと。


 だが。


「でも海水浴場に来た時に節操がないなんて話にはならないよね」

「確かに。液体という点でも同じではないかと私も思います」


「肌の露出をしているという点でも同じですしね」

「私は昌芳くんに裸を見せて喜んで貰いたい、それだけです」


 最後だけは流石におかしい内容ではあるが、要は温泉はプールと同じだという妙な理屈に押し切られ、本当に一緒に入る羽目になったのだ。


 いや、男としてこれを嬉しくないと思わない筈がないのは事実……しかしこれを容認することは事態をいたずらに悪化させるだけ……。


「ほう、川西さん中々おっぱいが大きいですね」

「へっ! そ、そんな……恥ずかしいです……」


「そういう服部さんは凄くスタイルがいいですね」

「お褒めの言葉ありがとうございます。胸は平均ですが、くびれやお尻周りには自信がありまして、美ボディとでも言いましょうか」


「でも貴方は丈夫な赤ちゃんを産めそうなお尻ですけどね」

「胸だけが全てじゃないから……ぐ……でも豊中先輩の身体――」


「昌芳くんの為だけに作り上げた完璧なボディと素肌ですから、朽ち果てる寸前の三十路の身体とは訳が違います」

「豊中さん!?」


 脱衣所の扉越しに聞こえてくる話し声にムンムンと妄想が、否が応でも掻き立てられてしまう、お、落ち着け……。


 安々と欲求に負けてしまってはいけないのだ……! 欲に負けて暴走すると悲惨な結末を迎えると偉い人も言っていたし……!


 それに何より、向かった先にあるのは裸ではなく布一枚を纏った姿、それもタオルではなく水着だ。


「そう……その先にあるのは水着……だから何も慌てることはない……プールで泳ぐのと一緒プールで泳ぐのと……」


 いや……水着姿だって大概いいんじゃないのか……?


 所詮は2枚の布で覆われているだけに過ぎず、何ならタオルで隠している方がよっぽど素肌面積は狭い。


 黒芽先輩の過激な格好は二度ほどこの目で見てはいるが、素肌の面積で言えばまだ少ないものがあった、いや興奮はしたけど。


 それにあれは色々とトラブルがあった末なので、興奮以上に危機感が勝っていたけども、今はそういう状態ではない。


 しかも1人ではなく4人……ど、どうすれば……。


「最後の良心であった服部さんも妙に乗り気なせいでイマイチ信用できないし……今ならまだ逃げられる? いやそれは根本的な解決には――」


「三国くーん! 準備出来たから入っていいよー!」


 だが結論に至る前に無情にもゴングは響き渡る。


「隠れて時間を稼ぐか? それなら……うん?」


 すると、突如両腕に絡まる妙な柔らかさ、はて、この感覚何処かで。


 ふと左を向くと紐ビキニ姿の黒芽先輩、そして右を向けば胸に貼り付けられた『川西』の文字がはち切れんばかりのスク水川西がいるじゃないか。


 なんだ、最高かよ。


「本当は二人きりが良かったのですが……ごめんなさい……三国くんの美しい肉体美が見たい欲求に抗えなくて……」

「呼ばれてから来るまでが早すぎません……?」


「み、みみ三国先輩、お湯が冷めるとよくありませんので……」

「川西よ、お前もか……」


 こうなるとこの柔らかさに抵抗する力など最早存在する筈もなく、俺はそのままゆっくりと立ち上がらされてしまう。


 そして囚われた宇宙人の如く脱衣所まで連行された俺は、以前黒芽先輩が着ていたものより更に派手なモノキニを着た服部さんにズボンを降ろされ。


 そしてほぼ同時に花柄ビキニの山中にシャツをサクっと脱がされたのだった。


 ……わしゃ成金の富豪か。


「はあ……昌芳くんの素肌……なんて素敵なの……しっとりと汗の匂いも……」

「表現が艶めかし過ぎる……」


「ではファーストホットスプリングスと洒落込みましょうか」

「い、いや……ちょ、ちょっと……」


 美女4人に取り囲まれ、温泉に強制連行されるシチュエーションなど未だ嘗てあっただろうか、もう少しラッキーな展開があってもいいんじゃないのか……?


 だがそれは紛れもない現実として、流れ作業の如く水着一丁になってしまった俺は、その勢いのまま温泉へ。



 お、俺……これからどうなってしまうんだ……?

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