第44話 ヤバいヤバいヤバい

「ところで、つぐって三国と何処までヤったの」

「ぶっ!!」


 時刻も夕方となり、部活も終わったその帰り道。


 最近私達の間でルーティンとなりつつある、ペリオの一角にあるタピオカミルクティーのお店の前のベンチで、お喋りをしながらミルクティーを飲んでいた。


 ――のだけど、キヨの唐突なフリに私はタピオカを吐き出しそうになった上に喉に詰まらせそうになってしまっていた。


「ゴホッ! ゴホッ!」

「あ、ごめんごめん、そんなつもりはなかったんだけど」

「そんなつもりじゃなかったらどんなつもりだったの……」


 私は数回咳き込んだ後、タピオカを吸わずに紅茶だけを飲み何とか落ち着かせると、苦しさを押し出すようにして声をあげる。


「いやーだってさ、最近結構三国といい感じじゃん? 正直最初はどうなるかと思ったけど、教室でも話して良さげな雰囲気だったから」

「そ、そう……? そんなことはないと思うけど……」


 教室の一風景だけを切り取って見ればそういう風に映るのかもしれないけど、私としてはまだまだいい感じ止まりというのが現実なんだけどな。


 ライバルでもあるりんちゃんは根は良い子だから、上手く仲を取り持ちつつも牽制し合うといった関係性を築けているけど――


 あの胸――豊中先輩はマジでヤバい。


 彼女の行動力は完全に常軌を逸している。はっきり言ってまだ三国くんが取られていないのが不思議なくらい彼女には先を越されているのだ。


 それを考えると、口が裂けても順調とは言えないんだよね……。


「で、もう付き合っちゃってる訳なの?」

「はっ!? い、いや、そもそもそんなつもりは――」


「じゃあつぐともあろう人でも三国には苦戦してる?」

「な、な訳ないじゃん! 連絡先は交換してるんだよ!」


「……そりゃまあ、それすらしてないのはヤバいって前にも言ったし」

「だ、だよね~……」


 今までは恋愛相談に乗ったり、恋バナになっても私は振る側の立場にいただけに、追求される側というのは中々辛いものがある。


 ましてキヨに恋愛経験がゼロなんてバレたらからかわれるどころじゃ済まない……なんとしてもここは切り抜けないと……。


「でもさ、つぐくらいモテるなら三国をその気にさせるくらい訳ないんじゃないの? 実際さー意識くらいはしてると思うんだけど」

「そ、そりゃしてるかもね、少し話しただけで相手が好きと勘違いさせてしまう私なんだから、三国くんが意識しない訳ないじゃん」


「ふーん……じゃあもし三国がつぐに告白してきたらどうすんの?」

「ひぇっ……こ、告白……?」


 そんな……もし三国くんが私に『付き合って欲しい』なんて言われたら……そりゃ最高に嬉しいし、勿論オーケーに決まってる……。


「そうなったら毎日一緒にお昼を食べるから……キヨと遊ぶ回数も減るっていうか……下校の時もみ、三国くんと手を繋いで帰りたいし……」

「はい?」


「というか……そもそも三国くんって言い方もおかしくなるよね……昌芳くん……いやそれはあの女と一緒だから――まさくんとかまーくん……? じゃ、じゃあ私はつぐって……でもそれなら棗って呼んでくれた方が……」


「ぶつぶつ過ぎて何言ってるか分かんないけど大凡の検討はつくな」

「そしてちゃんと邪魔者がいない状態で……ちゃんと正面から抱きしめて貰って……さ、最後はき、ききキスとか――」


「おーい、ウブガールさんや、はよ帰ってこい」

「――――ま、当然私が上手くリードしてあげるけどね!」


「顔赤くしながらよくそんな強気な発言できるな」


 でも三国くんのことを考えると本当に最近はドキドキすることが多くなったような気がする、好きの気持ちが強くなっているというか……。


 前のデートで間違えて飲んじゃったストローも、実はこっそり持ち帰ったし……。


 あれ? 私もしかして、結構ヤバい……?


「つーかさ、三国って実際どんな人なの?」

「えっ? ど、どんな人って……?」


「いやさ、ヤバい噂が多いのは事実じゃん? だから皆三国を敬遠してる訳だけど、最近一緒にいるつぐなら流石に何か知ってるんじゃないかと思って」

「あー……」


 そういえば普通に三国くんと話してたから忘れてたけど、そんな噂あったね。


 まあ言うまでもなく、そんなものは勝手なイメージで付けられたものでしかない。


 何なら今の三国くんを紹介すれば普通にクラスメイトにも受け入れられると思うし、分け隔てない、一生懸命な姿は好意的にさえ取られるだろう。


 でも……そうなってしまえば、彼を好きになる子が増えるかもしれない……。


 それはちょっと嫌というか……けどだからといって三国くんの謂れのない悪評を維持させるような発言もしたくないし――


 どう伝えるのが一番いいんだろう……と頭を悩ませてしまっていると、突然キヨが「あっ」と声を上げた。


「え、なにどうしたの?」

「噂をすればなんとやらという奴ですよ、ほら」


 そう言ってキヨが指差した先を見てみると――そこにはまさかの三国くんがいた。


 いつも学校で散々会っている筈なのに、予期せぬ登場に思わず心臓がドクンと鳴ってしまう。


「ほら丁度いいタイミングだし、どうせなら声掛けちゃえば?」

「えっ!? で、でも、何か電話してるみたいだし――」


「何いってんのよ、それにどうせなら私にも三国くんを紹介してよ」

「う、うーん……それは――」


「もしもし――は、服部さんですか?」


 私達のいるベンチのすぐ横を歩いているのに、電話に夢中で全く気づく様子のない三国くんは何やら少し困惑した表情で電話の主とやり取りをしていた。


 服部さんって、誰だろう……? と思いながらも聞き耳を立てていると。


 次に放たれた言葉は、二の足を踏む私を容易にその場から立ち上がらせたのだった。


「はい、俺は全然、でも服部さんは――えっ? 声が聞きたかった……?」

「……んん? 今なんか聞き捨てならない言葉が」


「キヨ……悪いけど先に帰っててくれる」

「つぐ? ひっ……じゃ、じゃあ後はお二人でごゆっくり……」


 私の言った言葉に素直に従ってくれたキヨは慌てて立ち上がって離れていったけど、一体私はどんな顔をしていたのだろう。


 まあでも、一つ言えることがあるとすれば。


 これ以上三国くんを目移りさせるような女を増やすのはヤバい、その一心で彼に向かって歩き出したのは確かだった。

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