第14話 気づかないフリしてたけど
「さて……何からお話をしたものかな……」
あの女、豊中先輩との勝負はこの子の登場によって中止してしまった。
というより中断せざるを得なかったというべきかな、男子トイレにまで三国くんを追いかける女子生徒を放置してまで勝負を継続する程盲目でもないし。
あーあ……せっかく人が殆ど来ない見晴らしのいい場所とか知ってたのになぁ。
結局すぐ近くにあるレストランに入った私達四人は、殺気立った闇おっぱい先輩を、三国くんと抱き合わせにして落ち着かせると、私は少しだけ離れた席にこの子と一緒に座った。
「……なーんか癪だなぁ、こういうのって一番損な立ち回りじゃん」
「あっ……その……ご、ごめんなさい……」
「ああ、気にしなくていいよ全然、私が好きでやってることだから」
「は、はい……」
「何か食べる? って言ってもそんな時間じゃないか、冷コー2つでもいい?」
「れ、冷コー……ですか?」
「あ、ごめんごめん、私の親って古臭い関西人でね、いつもアイスコーヒーのこと冷コーって言うから伝染っちゃって」
「そうですか……はい、大丈夫です、私も冷コーでお願いします」
どうやら今ので少しは和んでくれたのか、ずっと不安そうにしていた彼女は少しだけ笑顔を見せてくれると、私の言い方に乗ってくれた。
なんだ、可愛らしい所あるじゃん。
終始三国くん以外には一切口を閉ざしてたし、引っ込み思案なのかなと思っていたけど、そういうのにはうまく対応出来るようだ。
因みにお向こうさんはまあまあデカいパフェを豊中おっぱい先輩が頼んでいた、あいつマジで愛の加減ってのを知らな過ぎ。
「まーいいや、取り敢えずお話しよっか、三国くんのことが気になるのは分かるけどさ、もしあの女が暴走し過ぎたらちゃんと私が止めに入るから」
「えっ、あっ、は、はい……」
私にバレないよう三国くんのことを見ているのを指摘され、顔を赤くしてしまう彼女。
……憎いねえ、私ってもしかして恋に枯れてたりしないよね? もっと必死にならなきゃヤバいかも、まだ高校生だよ。
「えーとじゃあ、名前教えてくれる? 私は
「わ、私は……
「じゃありんちゃんでいっか、私はつぐでいいよ」
「え……? そ、そんなの無理です……」
あれ、後輩と初めて話をする時は大体こんな感じで入っていくんだけど、ここまで困惑されたのはちょっとビックリかも。
んーでもしょうがないのかな、私もこういうタイプの後輩とは初めて話をするし、フランク過ぎるのもあんまり良くないのかもしれない。
「……流石に呼び捨てはアレだったね、じゃあ『つぐ先輩』で妥協しよっか」
「――わ、分かりました……そ、それなら……」
怒ったつもりは全くないのに萎縮させちゃったかな、少しやり辛いね。
「と、取り敢えず本題に入ろっか、りんちゃんは三国くんとはどういうご関係なの?」
「ひぇっ――え、ええと……せ、先輩は…………私の恩人なんです」
「恩人?」
「は、はい……その、どうしてかと言われると説明し辛いのですが……」
説明し辛い、というよりは言いたくないって感じだねこれは。
きっと大切な思い出なんだろう、だから出会ったばかりの私に言いたくないように見える。
くっそー妬けるなぁ、男子トイレに侵入しちゃってる時点で三国くんに盲目なくらい恋心むき出しなのはバレちゃってるのにさ。
それとも本当に自覚がない……とか?
「ま、でもあれだね、いくら恩人とはいえ流石にトイレまで追っかけるのはオススメしないよ、気持ちは分からないでもないけどさ」
「ご、ごめんなさい……その……普段は絶対にしないのですが……」
「普段からしてたらいよいよだからね」
「ただ先輩が穏やかに過ごして欲しいだけで……」
「ふうん……? でもさ、りんちゃんは可愛いんだから、あんまり男しかいない個室に単身で乗り込むのは普通に危険だから」
「……? 私、別に可愛くないと思いますが」
「あらら?」
この子、自分が可愛いって自覚までないんだ。
確かに見た目は地味なのは否めないし、メイクも最低限? って感じだけど、逆を言えばそれで可愛いってのはかなりクオリティであるとも言える。
まあ、嫌味っぽさも謙遜も全く感じないし……本当に人に可愛いとか言われたことないのかも。
――にしたって三国くんは本当に美人にモテるなぁ、ちと癖のある子ばっかりな気がしないでもないけど、顔は全く申し分ない。
……私って――
「――ま、まあまあ! それはいいとして、『先輩が穏やかに過ごして欲しい』っていうのはどういう意味なのかな?」
「えっ、そ、その……先輩は……いつもとても疲れているように見えるので、心配と言いますか……あまり眠れていないのでしたら、ゆっくり眠って貰いたいなと……」
「あー、学校では殆ど寝て過ごしてるからね三国くんは……」
かくいう私も彼があまり眠れていない要因を作っているような気がするので、そのことについては黙っておく。
この子、会話しながらもずっと三国くんのこと見続けてるし、何ならあの女にも疎ましい視線を送ることがあるから、その中に私が入るのはまずい。
「特に最近は……眠りを阻害されているような気がしたので……」
「えーと……それは豊中先輩のことでいいのかな」
「豊中……? あの方豊中先輩って言うんですね……」
あれ、名前教えたら目の色が変わっちゃったよ、平然とあの女売っちゃったけど結構ヤバい気がしてきたよ?
どんな時でも本気のあの女に対して、りんちゃんは何というか、一撃が凄そうと言うか……、しかも自覚が無いのが尚の事ヤバい予感しかない。
当のあの女は到着した巨大なパフェを嬉々として三国くんの口に入れさせようとしてるし……イチャイチャしようとすんじゃねえよくそったれ。
私は冷静にならないといけない所なのに、ついイライラを募らせてしまっていると、私の方に目線をもどしたりんちゃんが申し訳なさそうな顔で口を開いた。
「あの……つかぬことをお伺いしてもいいでしょうか」
「ん? どうしたの?」
「つ、つぐ先輩は三国先輩のことが好きなんですか?」
「…………はい?」
前触れもなくバックドロップの如き攻撃を受けた私は、完全に面を食らってしまう。
本来なら反射的に「ないないない!」と否定すべきとこなんだけど、そう出来ない理由が主に2つあった。
一つは事実として三国くんという人間が気になっていたこと。
決して孤独でも孤高でもなくて、なのに放っておけばいつか悪くなりそうな物事を率先して片付ける、見返りを求めない優しい君のようになりたいと思っていたから。
そしてもう一つは――そんな三国くんを知っているのは自分だけだと思っていたのに、そうじゃなかったこと。
りんちゃんも、あの女も一癖あるにせよ、きっと彼の決して表には出さない良さに気づいて寄ってきたのだろう、そして私よりも先に二人共恋をしていた。
それがどうしても納得がいかなかった、そうじゃなきゃあの女に勝負を挑んだりしないし、りんちゃんを三国くんから離してまで嗜める真似なんてしない。
「…………」
……見て見ぬ振りをしてきたけど、ふつふつと湧き上がってきていた感情に、そろそろ私は目を向けるべきなのかもしれない。
「――どうだろうねえ、ま、顔はいいからね三国くんは」
でも私は、出会ったばかりの彼女にそれを教えるつもりはなかった。
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