第3話 謎



「行ってきまーす!」


 元気よく両親に声をかけ、家の玄関の扉を開けようとする少年。腰には剣をさしている。

 あれから、二年の月日が経ち現在は五歳である。


「ああ、気をつけるんだぞ」


「行ってらっしゃい」


 扉を勢いよく開け、家から少し遠いところにある森へひたすら走る。空から差し込む陽の光はとても気持ちがよかった。

 空は青く澄んでおり、とても天気が良かった。


「今日も魔法の修行しないとな」


 そんな事を考えながら、森へ向かって走る。修行といっても、新しい魔法のイメージを考えたり、魔力の制御をしたりするだけなのだが。


「さーて、まず何をしようかな?」


 森の中へ入り、緑の香りが漂うその空間に、木々の間から陽の光が差し込み、ぽかぽかとしていた。


「よし、今日はあの洞窟に入ってみようかな!」


 そう言うと、少年は木の上に登り枝から枝へと、乗り移っていく。

 途中、川の音がしたので近くへ寄ってみることに。


 ──確かお父さんは水は水素と酸素って言う、小さな粒の集まりからできてるって言ってたな。


 川の水を手で掬って、じっと見つめる。次第に水は隙間から流れ出てしまった。


「じゃあ、この水を氷にするにはどうすれば良いんだ?」


 少年は少し考えた後、何かを思いついたようで川の水を手で掬って、空中にばらまいた。


 ──水を氷にするには、温度を低くしないといけないって言ってたな。


 少し目を閉じた後に、空中にばら撒いた水に手をかざす。


「水を一気に、冷却!」


 そう言うと、空中にばら撒いた水が一瞬で凍って、地面に落ちる。


「成功だー!」


 氷の粒が陽の光を反射して、きらきらと輝いている。まるで金剛のように。


「さて、準備運動も終わったし、あの洞窟に行こうかな」


 背伸びをして、身体をほぐすと川を飛び越え森の奥へと走っていく。

 冷たい氷の粒は、もうすでに溶けていた。








 薄暗い洞窟の中は、森とは違い肌寒く恐ろしさが身体を伝わってくる。もっとも、この少年には関係のない話であるが。


「あった!」


 少年はまるで灯りを持っているように、道の隅で転がっているある物を見つける。


「これが、魔鉱石か」


 魔鉱石。長い年月をかけて魔力が凝縮された結晶のことである。透き通った色をしている魔鉱石は、手の平に乗る程度の大きさであり道端に落ちていそうな石ころにしか見えなかった。

 だが、売り物としては上等なものだ。

 存在自体が希少であり、滅多に手に入らないと言われる物なのだ。

 少年はズボンの右のポケットに、石をしまって立ち上がる。


「よし、他にないか探そっと!」


 洞窟を奥へ奥へと進んでいく。奥へ行くほど視界は暗く、肌寒さも強くなっている。

 体が小刻みに震えている。


「寒いなぁ」


 白い息がでてもおかしくないほどに寒く、冷気が漂う。あたりの岩には固まった氷が張り付いている。


「そうだ、お母さんにもらった魔石を握れば大丈夫なんだった」


 少年は左のポケットから、赤く輝いた石を取り出して、強く握る。

 魔石と呼ばれるその石は、周りを紅く照らし輝いている。

 魔石とは洞窟で取れる白結晶に属性別に魔力を込めることによって、効果を発揮する石である。

 少年が握っているのは焔の魔石だ。周りの氷が徐々に溶けていく。


「魔石って凄いんだなあ。今度お母さんに作り方を教えてもらおうかな」


 心をうきうきと弾ませながら、躊躇いもせずに奥へと足を進ませていく。足音が洞窟内に響く。

 進んでいくとある地点に、岩でできた壁がそびえ立っていた。洞窟の終わりを示している。


「これで終わりかぁ」


 少年は残念そうにその壁の前で呟いた。流石に疲れが出ていたのか、その場に座り込んでその場にあった石を手に取り、壁に向かって投げた。

 石は壁に当たって、そのまま何処かへ転がっていった。

 少年は洞窟を完全に探索し終えたようで、森に戻るために体を立たせる。


「いだっ!」


 彼の頭上には飛び出た硬い岩があり、それにぶつかってしまったようだ。頭をおさえて天井が高いところに移動しようとする。

 目からは少し涙が出ており、右目を閉じているので移動しようにも手探りで動くしかできない。

 慎重に奥へ進んでいく。


「ここなら大丈夫」


 頭の痛みも少しずつだが和らいで両目を開けられるようになった。周りを見渡すと、壁に石版らしきものがあり何かが書いてある。


「なんだこれ?」


 少年は興味を持って、一直線にその石版に向かう。薄汚れた石版をまじまじと見る。


「ちょっと汚れて見にくいな」


 石版にかかった汚れを手で払うが、なかなか落ちない。少年は諦め、そのまま解読をし始めた。


「『この石版に導かれし者よ、その力を持って戦いを望むのだ……』ここから先は汚れて読めないや」


 何を言っているのか、この石版になんの意味があるのか、導かれし者や戦いなど、少年には意味がよく分からない。

 石版の読めない部分が少年は気になっていた。


「汚れが落ちればなぁ」


 そう言って、石版の汚れをもう一度払ってみようと試みていると、石版に刻まれた文字が白く輝き始めた。


「え、なにこれ」


 文字が浮かび上がり白い光を放ち、洞窟の内部を照らす。少年には不可解な現象であり、なにがどうなったか分からない。


「なにかの魔法かな、でも魔法には魔力が必要だしな」


 魔力察知を使っても、魔力の流れが見えず魔法の類ではないらしいが、なんとも不思議な現象だった。

 その小さな頭で必死に答えを導き出そうとするが、無理がある。

 そうしていると、光は徐々に小さくなり、石版の文字へと戻っていった。不思議にも石版の周りだけが少し明るかったが。

 ポケットの赤い光は時が過ぎる度に徐々に小さくなってきた。


「あ、もうちょっとで魔石の効果が切れる!」


 少年は洞窟の来た道を急いで引き返す。

 そうやって、洞窟を後にした。

 足音は一つも聞こえずに。


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