第2話 日常
青く澄んだ空に、眩しく照りつける太陽が顔を出す。木々は風に揺られ、葉の影がゆらりと動いている。
爽やかな緑の香りに包まれた空間。そんな空間に親と子が。
「いいか? 魔法を使いたいなら、『自分がどれだけの魔力を持っているか』を知っていなければならないんだ」
「なんでそうじゃないといけないの? 別に知らなくても魔法は放てるんでしょ?」
「魔力を制御するのは自分だ。制御ができないと自分にも危険が及ぶ」
子供は「ふーん」と口にして理解した後、また何か考えているようだった。
その行動を見ていた父親は、子供に、
「何か分からないことでもあるか?」
と聞くと、
「具体的にどうやって魔法を放つの?」
突然の話題転換に少し困惑をした父親だが、咳払いを一つして説明を始めた。
「魔法はその人自身の『想像』つまり、どんなイメージを持つかによって、発現する魔法は変わるんだ」
「イメージ?」
「例えば、緩やかな川の流れを想像した時と、激しい流れの川を想像した時に、どっちのイメージのほうが威力が強いと思う?」
「それは、激しい方だよ」
「だろう? こんな風に想像する事が違えば魔法も違うんだ」
「じゃあ、魔法には詠唱がいらないの?」
「そうだ。お前は飲み込みが早いな。なんで分かったんだ?」
「だって、イメージだけで発現するんだったらいらないかなって」
父親は微笑んだ後に、子供の頭を撫でる。子供は嬉しそうに顔を少し赤く染める。
「さて、これが魔法の基本だ。『魔力の制御』と『イメージの関わり』『無詠唱』だ。他に聞きたい事はあるか?」
父親がそう言うと、子供はすぐさま質問を繰り返した。
「自分の魔力の量を増やすには、どうすればいいの?」
「魔力の器を広げることが大切だ」
「魔力の器?」
「じゃあ、家にあるティーカップと池だと、どっちが多く水が入る?」
「池だよね」
「そうだ。だから魔力の量を多くしたいなら器を広げるんだ」
子供はすぐさま理解をしたようで、また質問を繰り返す。
「器を広げるためには何をすればいいの?」
「魔力を体の周りに展開して、限界に達するまで続ける。それだけだ」
子供はあまり理解が出来なかったらしく、首を傾げている。
「お父さんやってみてよ」
「じゃあ、少し離れて」
父親の言う通り、三歩ほど後ろに下がってじっと父親を見ている。
「いくぞ」
父親は目を閉じて、何かに集中している。すると、父親の周りに何かが放たれているようだった。
得体の知れない物に子供は釘付けだった。やがて、子供の周りにもその何かが迫ってくる。
一瞬のうちに、何かに包まれた子供は目を大きく開け、その場に力んで踏ん張るようにしていた。
とてつもない、重圧だった。
周りの木々に亀裂が入る音が聞こえる。
父親が再び目を開けると謎の重圧は消え去り、重圧も消え去っていた。
その重圧から解放された子供は、とても驚いた様子であった。父親がそんな子供に歩み寄る。
「どうだったかな?」
「すごく重かった」
「魔力の量が多ければ多いほど、密度が濃くなってそうなるんだよ」
「あれが魔力なんだね。目に見えにくいけど」
「そうだ。魔力は目に見えにくいが、肌で感じることができる」
「僕もやりたい」
目を輝かせて、父親を見つめる子供。
「じゃあ、教えるからこっちに来なさい」
「はーい」
父親に誘導され、立たされたのはさっき父親が立っていた場所だ。
「いいか、魔法はイメージだと言ったな?」
「うん」
「これも同じことだ。自分の周りに魔力という目に見えない力を全身から出している様子を想像するんだ」
「分かった」
子供は父親がやっていたように、目を閉じて集中し始める。
──全身から自分の持つ不思議な力を、周りに展開する。イメージ、イメージ。
「こ、これは!?」
父親が驚くのも不思議ではない。
たったの五秒ほどで、全身から徐々に魔力が展開されていく。
魔力はどんどんと周りに広がって、森の木々を軋ませていく。
「こ、この魔力の濃さは、尋常ではない!」
子供が目を開けると、木々の軋みの音は消え、いつも通りの森に戻っていた。
「上手くできてた?」
「……」
驚きの表情を隠しきれない父親は、その場に黙り込んでしまった。
「おーい。上手くできてた?」
「あ、ああ。あれを限界まで広げるんだ」
「それだと、みんなに迷惑かかっちゃうよ?」
「ならば、全身の魔力を圧縮して、制御してみるといい」
そうすると、父親は両手を胸の前に出し、両手に魔力を展開し始める。
濃い魔力が一点に集まり、球体のようなものを作り出している。
今回は目を閉じなくてもできているようだった。
「こんな感じだ。お前もやってみろ」
「こういう感じ?」
両手を胸の前あたりに出し、イメージを思い浮かべる。
──全身の魔力を両手に圧縮して、それを展開する。イメージ、イメージ。
「できてるじゃないか」
「これで良いの?」
子供は不思議そうな顔をしている。さっきより楽なのであろう。
「ああ。それにしても、お前は魔法の素質があるみたいだな」
「そうなの?」
「ああ」
魔力の展開をやめると、腕を組んで「うーん」と呟き、何かを考える。
「どうした、分からないことがあったか?」
父親が子供にそう言うと、子供は父親に一つ質問をした。
「ねえ、水って何からできてるの?」
「ああ、それはだな……」
ここから、魔法の威力の高め方、魔法の発生の仕方など、子供の好奇心を擽ったおかげで、家に帰るまで二時間ほど質問攻めになり、魔法の基礎知識の特訓は終了した。
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