第25話 公園にて
第25話 公園にて
公園までは、軽くジョギングする感じでつぐみさんと一緒に走る。朝の住宅街は、まだ人通りも少なく、たまに犬の散歩をしている人がいるくらいだ。ジョギングパンツから伸びた彼女の足が、健康的でかつ艶かしい。
公園について、広場で軽く体慣らしの体操をする。まあ、学校で行っていたような感じで、ふたりで手を握って横で伸ばしたり、背中をつけて伸ばしたりもした。そこそこ暖まったので、取り敢えずどのあたりから廻るかを確認する。
『ラルカ、何か感じるかい?』
『同族は沢山おるが、君の気配は紛れてしもうとるようじゃのー』
この広場でさえ、マンションでの大合唱の倍くらいの音量だから、森に入ったら更に居ることは確かだ。
『ところでラルカの末裔は何処にいるんだい?』
『こっちに来るように伝えたから、そろそろ来る頃じゃ』
と言っているラルカの見ている方に目をやると、何かがこちらに向かっているようだ。空に暗い点が見えてくる。それは、やがて雲のような蝉の大群に成った。
つぐみさんと、唖然として見ているとその大群は頭上を一回りしてから、森の方に飛んでいった。
『単独で飛んでおると、鳥に狙われたりするから、まもってくれとるのじゃ』
何だかんだと言っても、一応女王様の末裔としての扱いに成っているみたいだ。そして、つぐみさんと今あったことを、目を見合わせて再確認する。ちなみに、あれだけ飛んできていたら、マンションの回りは突然の静寂に包まれているのではないだろうか。
気を取り直して、公園の回りかたの検討を始める。
『つぐみさんは、いつもどんな感じで回ってるんですか?』
『大体、今のところから入って、あっちの森を回ってから、中央の池の辺りに出て、池を一回りしてから帰る感じよ』
『そのコースだと、南側の3分の2位のカバーになるから、取り敢えずそれで回ってから池の辺りで食事にしましょう』
『ええ、そうしましょう』
彼女の背負っていた、ピンクのナップザックを引き受けて背負ったら出発だ。
『ラルカ、何か感じたらすぐに言ってくれ』
『わかっておるよ、殿』
つぐみさんの後ろについて走り始める。この辺りは道幅が広目なので、追い付いて並走する。
『気持ち良いですね』
『この時間だったら気持ちが良いけれど、2時間位たったら結構暑くなるわよ』
『それだと一日中は厳しいかな』
『そうね、歩くのならなんとか成ると思うけど、ジョギングは夕方まで無理だと思うわ』
『水分はこまめに取らないといけなさそうだしね』
まあ、木陰を使って涼んだりしながら活動しないと一日中は厳しそうだ。公園はほとんど森なので日陰には成るが、つよい風が吹かないと、森の中では風を感じられないだろう。
コースは森のなかに入って、つぐみさんが君の脱皮を見た場所まで来たが、ラルカの反応はない。そのまま、彼女のいつものルートに沿って走っていく。ちょっしたアップダウンの有る森の小道は、軽やかに走っていた俺の体力を徐々に奪っていく。
『つぐみさん、済みませんが少しペース落としませんか』
『あ、ごめんなさい。いつものペースに成ってたわ。コースの起伏知らないと配分しづらいわよね』
このコースを、さっきのペースでずっと走り抜けられるから、昨日の速さでコーヒーハウスにたどり着いていたのも納得がいく、が俺がその域に達するのはかなり掛かりそうだ。夜も少し走った方が良いかな。
『夜は走ったりしないんですか?』
『夜は危険だから、休みの朝に走ることにしてるの』
そりゃそうだ。女性1人での夜のジョギングは、考えれば危険なことは確かだ。でも、休みのジョギングだけでこんなに速くなれるのだろうか?
『学生時代、何かスポーツやってたりせてません? 陸上とか』
『え! 体育会系にみえる?』
『身体をキープするのに走っているのかなって』
『全然よ、走り出したのは社会人に成ってから。朝のラッシュに揉まれて、自分の体力の無さを自覚してから始めたの。今はフレックスだから良いけど、入社当時は9時5時だったから、ピークの時間帯にもろ被りでへばってしまって』
なんて、(絆で)喋りながら走っていると、第1目標の池が見えてきた。
『ラルカ、どうだい?』
『今の辺りには、おらんのー』
まあ、すぐに見つかる物でも無さそうだし、しばし休憩としますか。
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