第24話 神島邸にて(リビング4)

第24話  神島邸にて(リビング4)


 お父さんは、ふたりの関係を心配して、外泊の許可までくれている。それに、暗につぐみさんの部屋で暫くふたりで過ごすようにとも言っていた。これは、見ていてまどろっこしいから、ラブラブ・イチャイチャな事でもして親睦を深めろと言うことだろう。


 気持ちは嬉しいが、お膳立てされてしまうとなんか違うような……これが、例の幼馴染みを周りがくっつけようとする時の違和感に通じるものだろうと理解できる、今なら。


 申し出は嬉しいし、つぐみさんとの関係を進める上での外部的な障害は無いことに成る。後は、つぐみさんの気持ち次第で、結婚する事まで一気に出来るかもしれない。でも、何かが違う。何かが。


『俊哉さん、どうしたの?』


『つぐみさん、ラルカの言っていたことは、一旦置いておいて、ここ両日の過ごし方を検討しませんか? 何か用事とか有ったりします?』


『買い物に行こうかと思っていたくらいで、特に外せないものはないわ。で、どうするの?』


『お父さんからは、つぐみさんの外泊の許可も出て今日明日はふたりでずっと一緒に過ごすことに問題は無いと思いますが、僕と一緒にいてくれますか?』


『ええ、だってラルカちゃんの君探しを一緒にするんでしょう』


『そうだね、それだけじゃないんだが……まずはラルカの件を何とかしないとね』


 もしかしたら、つぐみさんはこう言ったことに疎そうだからお父さんが心配してなのかもしれない。いや待て、レディースや2次創作本も持っていたから、知識はある筈だ。でも、俺と一緒で経験は無いのだろう。


 まあ、お膳立てしてもらってもふたりの気分が乗らないと何ともなら無いものだと思われるから、お父さんの言っているふたりで過ごす、を、今は大事にしよう。


『いつもは、ジョギングだっけ。ラルカの君を探しがてら僕も付き合うよ。で、今日一日は公園で過ごす感じにしよう。取り敢えず、僕は一旦着替えに帰ってから戻ってくるよ』


『分かった、私も着替えて朝食に成るものを用意しておくわ』


 長かった宴は終わり、やっと爽やかな朝をジョギングがてら、ふたりでラルカの君を探しに行くで何とかまとまった。


 つぐみさんの部屋でのムフフは、惜しいが今後付き合っていればいくらでも機会は有るだろうし、まあふたりの気分が乗ったときが一番良い時だと思いたい。


『じゃあ、迎えに来るね』


『用意して、待っているわ』


 恋人同士なら、ここでキスしてしばしの別れとなるが、まだそのレベルには達していないもどかしさもあるが、それはこれからだ。


 神島邸を後にして、酒を飲んだ翌朝とは思えないほどのスッキリした頭で一路家に向かう。つぐみさんと一緒にジョギング。つい昨日夢見た事が現実に成ろうとしている。何か凄く縁の様なものを感じる。


 これはラルカの絆が引き寄せたものなのか、それとも縁が絆を呼び寄せたのか、どちらもある様な気がする。つぐみさんは運命の人なのだろう。


 家に着いて、さっさと着替えてウォーミングアップがてら、軽く走りながら神島邸に向かう。昨日のつぐみさん程は早くは走れないが、まあ体は動きそうだ。


『つぐみさん、そろそろ着きますよ』


『もうちょっと待ってて、今出るから』


『じゃあ、向かいの公園で待ってますね』


『殿はこれから君を探しに行ってくれるのかえ』


『ああ、つぐみさんとジョギングがてらだけど、あの公園はくまなく回ってみようかと思っているよ』


『すまんのー、まぐわう暇ものうて』


 もう、蝉の考えには慣れたので、そこはスルーしておいて、


『ラルカ、この辺りに居なかったら、どうすれば良い?』


『そんな遠くまでは行けんから、この辺りを回るしかないのー』


 ラルカと話していると、神島邸の玄関が勢いよく開いて、つぐみさんが出てきた。


『おまたせー、さっ、ラルカちゃんも行こうか。でも、その格好じゃジョギングは無理じゃない?』


 つぐみさんには、着物姿に見えているのだっけ。


『ラルカは実体が有るわけじゃあ無いので、ついてくるのには、問題ないよ』


 そうして、ふたりと一匹の朝のジョギングが始まるのだった。

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