第20話 神島邸にて(彼女の部屋)

第20話 神島邸にて(彼女の部屋)


 幾分かの時間が過ぎたのだろうが、それが長かったのか短かったのか良くわからないが、頭のなかでは彼女を着替えさせることについてのシミュレーションが100通り以上行われたことは確かだ。


 最も安全な方法は、服を脱がせて、ネグリジェを着せて、ブラのホックを外すだけにしておく。(ここで、ネグリジェを置いて退出の案で無いのは決して意図的ではない)


 方針が決まれば、後は実行のみ。彼女に布団をかけ、上半身を起こして服を上から脱がせる。ネグリジェを頭から通して胸元に行くときに、ブラのホックを外す。それだけだった筈なのだが、問題が発生した。


 背中にホックが無い!!


 これは想定外の事態だ。フロントホックというものがあるのは、知識としては知っている。が、どういった構造なのかは分からない。胸元で操作を行えば良いのだろうが、テレビの宣伝では外したりするシーンは出てなかったと思うし、当社の機構は外れにくい等と言っているということは、色々な方式が有るに違いない。


 となると外すためには、胸元を見なくてはならなくて下手をすれば触ってしまうかもしれない。まずいぞ、ドキドキしてきた。


『つぐみさん、ネグリジェに着替えるのでブラ外してください』


『寝てるんですかー、起きないと外しちゃいますよー』


 反応はない。これは決行あるのみ。


 胸元を覗き混むと、ブラの真ん中にボタンのような、感じの突起がある。これを押せば外れるか……駄目だ。押しても胸元に沈んでしまう。


 そうなると、指を入れて挟んで押せば動かない筈だ。ブラの間に指を通す。なんか凄くエロい感じがしてくる。


 邪念を払うように一呼吸してから、親指と人差し指でボタンらしき物を挟み込んでみる。少し力をいれると、パチッ、と外れる音がして押さえていた部分が分解した。


 それと同時に、押さえつけられていた胸は反動で大きく波打って、今にも外したブラを弾き飛ばしそうだ。


 慌てて、首に通していたネグリジェをさげながら、背中からブラを外して、袖に手が通るように誘導する。左右が通ったところで下までネグリジェをを下ろしたいところだが、下着一枚の腰の辺りに手をやるのは、さすがに躊躇する。


 そのまま、上半身を横にして布団をかけてあげる。こんなに苦労をしていた傍らで、すやすやと寝ている顔を見ていると、いとおしさが込み上げてくる。


 額にかかった、髪の毛をどけて現れたおでこにおやすみのキスをして、布団をかけ直す。一仕事終えて、部屋を出ようと振り替えると、入り口にはお父さんが立っていた。


「いま、寝かせました」


「ああ、見ていたからわかるよ」


 お父さんの目が据わっているようだ。いったい何処から見ていたのだろうか。基本やましいことは、心の中以外ではしていない、筈。


 でも、お父さんの目にはどう写ったかだ。


「ぐっすり寝ているようなので、下に戻りましょう」


 なんか、酔いが一気に覚めて行く感じかする。普通だったら、そろそろ頭痛でのたうち回る頃合いだが、その予兆もない。


 無言のまま、降りる階段は一歩一歩が非常に重い。リビングには、お母さんの姿はなく、既に寝枷つけられたのだろう。


 目で席に付くように促されると、そのまま従うしかない。


「俊哉くん」


「はい」


「君とつぐみの間に、まだ肉体関係の無いことは分かった。それに君は紳士のようだ」


と言いながら、お酒を用意している。そして、グラスを渡しながら、目をじっと見詰められる。


 ただ、お父さんの次の言葉を待つだけの時間が過ぎていった。

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