第19話 神島邸にて3

第19話 神島邸にて3


 酔いが回ると良く言うが、実際は酔いが回るのでは無くて、頭がくらくらと回ってくるものなので、酔いで回るが正解かもしれない。


 5杯目までは覚えていたが、目の前に空いたグラスは2桁台に乗ろうとしている。つぐみさんはお父さん、お酒あまり強くないといっていたが、彼女自身あんなに弱いのでは最終的にお父さんがどれくらい飲んだか、きっと分かってはいないのだろう。


 そのつぐみさんは、ソファーに座ってすやすやと寝ている。たった2杯で酔って寝てしまうとは、コスパが良いというか、危なっかしいというか、外でお酒を飲むときは気を付けてあげないと、などと考えている余裕はもうほとんど無くなりかけてきた。


「おとうしゃん、ほぼ一通り味わった様な気がするのでが……」


「そーおうだね、誰かと一緒にここまで飲めたのは、久しぶりゃだよ。ありがとう」


「いえー、こちゃらこそ、ごちそうさまですー」


「俊哉くん、済まないがつぐみを部屋まで連れていって寝かせてきてくれないか」


「はい、分かりました」


「寝かせたら、ここでもう少し話そうか」


「はい」


「『つぐみさん、部屋にいきますよ』』


『ほにゃじぶんにゃあらけろわ』


 駄目だ、こっちの思考もホナャラケそうだ。


「『いきますよー』」


 ソファーに寄って、つぐみさんを立たせようとするが、完全に足元がおぼつかない。


 仕方がないので、抱き抱えることにする。俗に言うお姫様抱っこに成るのだろうが、その時は単に必死だっただけだ。この時、頭のなかをこんな言葉が過った。


『思ったよりも軽いな』


それに対しては、思わぬ反応が有った。


『えー、私ってそんにゃに重そうにみねてなゃの。ちゃんとコントロールして、適性を維持してって、あれ!』


 閉じていた目が開かれた。覗き込んでいたので、つぐみさんの顔がすぐ近くに有って、お互い見詰め合う形になる。


 ここで、お父さんの視線さえなければ、唇を寄せ有って、となるグッドタイミングなのだが、背中に感じる視線はかなり強いものだ。


「『つぐみさん、気がついたんですか! いま、寝室に連れていこうとしていたんですよ、お父さんに言われて』」


 ちゃんと当人以外にも聞こえるように、しゃべっておく。


「『としにゃさん、自分であるけ……なゃいわ。おねがいしましゅ。階段気を付けて』」


 首に手を回してきた彼女を抱えて、階段を上っていく。新婚初夜に、新郎が新婦を抱えて寝室に……


 まずい、妄想が入り始めた。首に手を回して来ているので、顔が近いだけでなく、彼女の柔らかい部分が胸に当たって、心地よい、じゃなくて緊張を誘っている。


 階段を一段一段上る度に、揺れ動く胸は破壊的な刺激を与えてくる。上りきったところで、気持ちを落ち着かせないと、そのままベッドに雪崩れ込みたい衝動を押さえられなくなりそうだ。


 ゆっくりと歩いて、ドアを開ける。部屋のライトを点けて、いざベッドへ。


 首にかけていた手も力なく下がり、可愛らしい寝息をたてているつぐみさん。欲望といとおしさの天秤は、彼女を優しくベッドに横たえる方に傾いた。軽く、額におやすみのキスをする。これくらいは、良いよね。


 そこで、はたと思ったのだが、服を着たまま寝かせて良いのだろうか?


 寝間着かパジャマなどの寝具に着替えた方が良いだろうし、ブラをしたままでは苦しいに違いない。が、着替えさせるとなると、その前には脱がさないといけない訳で、そんな美味しいことしても……


「『つぐみさん、パジャマ何処ですか? 出して置いておきますから、着替えて寝て下さいね』」


 聞こえたのかわからないが、彼女の手がクローゼットを指しているように見える。


 扉が小さいと思ったが、中は結構広い、俗に言うウォーキングクローゼットに違いない。両側に大量の服が並んでいる。この中に通勤の時に見た服も有るのかもしれないが、まず見付けることは出来なさそうだ。


 奥の引き出しの中に畳んだ服が入っているのだろう。何処にパジャマが有るか分からないから、片っ端から開けてみたいが、下着が出て来たらまずい事になる。


 右手の長めのワンピース等が釣り下がっている手前の部分に、ネグリジェの様な服が見えた。少し分かれているのは、外着と分けているからなのだろう。手に取ってみると、柔らかくてネグリジェに違いない。


 それを持ってベッドに戻ると、既につぐみさんは、深い眠りの中のようだ。着替えさせるか、そのまま脇に置いておくか、心の葛藤は可愛らしい寝顔を見ている裏で、揺れ動いていた。

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