第18話 神島邸にて2
第18話 神島邸にて2
つぐみさんと下りていったリビングには、少し多めのおつまみ類と、氷とグラス、とウィスキー等の洋酒の瓶が少なくとも二桁の数並んでいた。
『お父さん、お酒弱いんじゃ』
『ええ、弱いくせにいろんな種類を飲みたがるの』
『そうなんだ、でもちょっとづつ飲めば、全種類いけるかな』
『私には分からないけど、結構強いお酒も有るようだから、気を付けてね』
自分自身、お酒は強い方ではないと自負している。二日酔いには成らないが、当日の夜中には、頭が痛くなるのがパターンだ。ペースに気を付けないと、醜態を晒すことにも成りかねない。
「す、すごい量ですね」
「娘たちには、この味の違いが解らないんだ。ちょっとずつ味わおうじゃないか」
「はい、ご相伴にあずかります」
小さめのグラスに、最初のお酒が半分ぐらい注がれる。この雰囲気は、かんぱーいと言って一気に飲むようなものでなく、ちびちびとバーのカウンターで並んで飲むものに近いのかもしれない。
一杯目は、お母さんも含めてつぐみさんの分も、お父さんはつくっている。
「じゃあ、今日は俊哉くんの歓迎という事で、チアーズ!」
と言って、グラスを上に掲げたあとイッキ飲みしている。合わせて一応形は真似してみる。まあ、一杯目はビールのイッキ飲みと同じようなものか。
お父さんは、黙々と2杯目の準備をしているが、つぐみさんはお酒弱いのだろう、もう真っ赤な顔をしている。
お母さんの方もつぐみさんとどっこいどっこいの赤い顔だ。そんな中、2杯目を作り終えたお父さんは、各自にグラスを配り始める。
2杯目も、グラスを掲げてイッキ飲みだ。気が付くとこんな感じで、5杯目のグラスが目の前にある。つぐみさんとお母さんの前には、飲んでいないグラスが3つ有るので、2杯目で
脱落したのだろう。
このままではいけないと、朦朧としつつある頭で考えてでたのは、
「おとうさん。つぐみさんの名前はどうやって決めたんですか。とても素敵な名前だと思っています」
「俊哉くん、つぐみが産まれた時は難産でね、医者に母子共に危険だと言われたんだ」
少し遠い目をしながら、話を続けている。
「子供が授かったって妻から聞いたときは、嬉しかったよ。男か女か、名前は何にしようか、出産までの間は、とりとめもない時間が過ぎていた気がする」
こんどは、口につけたグラスから少しだけ飲んで、話を続けている。
「いざ産まれるってなった時、まさか難産で医者からどちらか一方、もしかしたら母子共に危険な状況だと告げられるなんて思ってもいなかったから、ただ祈るしかなかったんだ」
グラスをテーブルに置いて、遠い目をしている。
「どれくらいの時間がたったか、わからなくなった頃、産声が何処からともなく聞こえてきた。それは、こんなに大変な事が起きていた事などとは関係なく、元気に泣いていたんだ」
「嬉しくなって、ただ涙を流していたんだが、はたと妻は大丈夫だろうか、不安が首をもたげ始めると、もう後はとめどもなく悪い方に考えが流れ始めて……」
グラスの残りを飲み干して、
「ただ祈ったんだ。妻も無事であるようにと」
「そして、暫くしてから、産着にくるまれたつぐみを抱いて助産婦さんが出て来て、”女のお子さんです、母子共に元気ですよ、ふたりともがんばられました”、抱かれているつぐみは、先程の泣き声をあげていたとは思えないくらい、静かに眠っているようだった。妻は焦燥した中にも微笑みを浮かべていたよ。その時、女は強いなって思ったね」
次のグラスを用意しながら、
「そうだった、つぐみの名前だったね。産まれたばかりの彼女を腕に抱いて、開いた目を見つめたとき、”わたしは、つぐみ”って言っている様に聞こえたんだよ」
『つぐみさんって、自ら名前主張してたんだね』
『ほんにゃこにゃわなにゃにゃいわ』
駄目だ、思考も酔っぱらっている。
「俊哉くん、グラスが空いてないよ」
「あ、すみません。つぐみさんが産まれるのがそんなに大変だったなんて聞いて、感じ入っていたんです」
と言って、ゆっくりと飲み干す。自分的には、そろそろ限界に近いし、多分ほぼ2時間後には頭痛に悩まされるのは確定だ。
お父さんの方は、言葉はしっかりしているが、顔はもう完全に酔っぱらっている。自分はどんな感じなんだろう。
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