第17話 神島邸にて

第17話 神島邸にて


 神島夫妻の後を、つぐみさんとついていく。本日3度目の訪問だが、玄関を潜るのははじめてになる。


 恋人同士なら、手を繋いでのシチュエーションだが、ご両親の手前だけではなく、まだそこまではいけていない間隔が二人の間には有った。


『ちょっと緊張してきた』


『お父さん、俊哉さんの事、多分気に入ってくれてるんじゃないかしら』


『どうして、そう言えるの』


『はじめて会った人を家に呼ぶなんて、今まで無かったし、父からそれを言い出したのだから、俊哉さんの事をもっと知りたいと思ったのよ』


『君はもっと僕の事を知りたくない?』


『大体の本質は絆から感じ取っているから、フィーリングでは合っていると思うの。ただ、奥深いところの考え方やなんかは、分からないし、そういうものはお付き合いしてお互いを徐々に知っていく物ではないかしら』


『そうだね、僕はもっと君の事を知りたいと思うし、僕の事も知って貰いたいと思っているけれど、この絆での1日はオーバーフロー気味かな』


『そうね、今日一日でいろんな事が有ったわね』


 自然とふたりの手が重なって、指を絡めようとしたところで、神島邸に到着してしまう。慌てて、手を離してそ知らぬ感じをしようとするお互いを見て、ふたりで思わず笑ってしまう。


「あらあら、ふたりともどうしたの?」


「あ、いえ。ちょっと」


「さあ、我が家だ。上がってくれ」


「おじゃましまーす」


 門を抜けて、玄関のドアを開けてもらって、神島邸に招き入れられられる。お母さんが、つぐみさんに何か話している。


「俊哉さん、ちょっと用意するからそれまでの間はつぐみの部屋にいて下さいね」


「は、はい」


 つぐみさんの部屋、まあ自分の部屋も見られたわけだし、彼女の部屋も見てみたいのは確かだ。


『「俊哉さん、2階なので付いてきて」』


 彼女の部屋、良くあるシチュエーションでは、両親の居ないときにお邪魔して、ムフフフーって感じのパターンが有るが、今回は両親に呼ばれて来ているわけで、そんな事は起こるわけが無い。


『ここよ、どうぞ』


 ドアを開けて招き入れられたのは、一人部屋としては大きく感じる8畳位の大きさで、机とベッドとクローゼットがある整然としたものだった。


「おじゃまします」


 ドアをくぐって部屋に入ると、ベットの前で腕を組んでふふーんとしている彼女がいる。その目線の先を見るために振り替えると、ドアの壁一面は本棚に成っていて、書籍やらコミックが、大量に詰め込まれていた。


 コミックは、少女ものから、少年、青年もの、そしてレディースまで多彩に揃っている。書籍もラノベから専門書まで、結構本の虫なのかもしれない。


 専門書の棚に行って、一冊引き抜くと後ろの列には同人誌が並んでいる。本を戻しながら、振り返ると、


「同じ穴のムジナね」


と言って、少し目を背けている。


「コミケとか行くんですか」


「いいえ、あんなに人が多いところは苦手だわ。トラとかアニ…、なに言わせるのよ」


「いや、同じだなって思っていたんだ」


「私は、あなたみたいに…」


 棚からレディースコミックの一冊を取り出して、表紙を見せると、


「そうね、こっちの方が青年紙よりも過激かも知れないわね。で、何が言いたいわけ」


「いやー、つぐみさんがもっと身近に感じられた、って言うことです」


 吹き出す一歩手前の緊張感のなか、つぐみさんのお母さんの呼び声が聞こえた。


「つぐみー、俊哉さーん。準備が出来たから下りていらっしゃーい」


「はーい」


 ふたりで、階段を下りてリビングに向かっていく。これで、公認だったら、自分の腕につぐみさんが寄り添って下りる感じになるんだろうが、まだふたりには微妙な空間が存在している。


 そしてこの時、俺はまだ神島の家の恐ろしさを知ってはいなかった。

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