第14話 テーブルトーク
第14話 テーブルトーク
家にはいると、お袋はまた着替えて髪の毛をセットしているところだった。
「俊哉、カジュアルでも良いからちゃんとネクタイが出来る格好にしなさい。向こうのお母様に気に入られなかったら、つぐみさんとお付き合いさせて貰えなくなるかもしれないわよ」
「わかってるよ」
とは言いながら、ちゃんと服を着替えている自分がいる。つぐみさんのお母さんに気に入られれば、完全に公認の仲に成れるのだから、ここは、手を抜けない。
そこで、はたと思いついたのだが、つぐみさんのお父さんは今日来ないよね。来て、突然、”娘はやらん”とか言い出したりすることはないと思いたい。
そんな考えは頭から振り払って、お袋と一緒に家を後にする。予約をいれたレストランは、彼女の家と家の真ん中辺りから少しこちらより位のところにある、5組入ったら満席になる小さなものだ。
最近、この電鉄の企画かなにかで、沿線沿いにフレンチやらイタリアン等の小さめのレストランが、出店してきているなかのひとつだ。
何故か緊張してきた。絆通信でどの辺りまで来たか聞いてみる。
『つぐみさん、今どの辺りですか?こっちは、そろそろ着くけど』
『もうすぐ、お店が見えるぐらいのところまで来たわ。今角曲がってきたのって、俊哉さん?』
『そうだよ、こっちからも姿見えたよ。入り口で待ってるね』
つぐみさんのお母さんも着飾ると言うほどではないか、それなりの格好をしてきている。お袋と、どっこいどっこいかな。
それよりも、つぐみさんがヒラヒラとしたワンピースにショールを羽織って、とっても可愛い。でも、可愛いだけでなく清楚な色気も醸し出している。
店の前で、ボーッとつぐみさんが来るのを見ていたら、お袋のやつが俺の耳元で、
「惚れ直した?」
などと、のたまってくれている。彼女達が近付いて来たところで、
「織田です。初めまして神島さん」
「こちらこそ、娘が世話になりまして」
母親たちのあいさつが、一通り終わってから店に入る。俺の目はつぐみさんにロックオンしたままに成ってしまった。
『どうしたの?じろじろ見て、恥ずかしくなるじゃない』
『遠目で見たら、つぐみさんの事可愛らしく見えたんだけど、近くに来たら綺麗だったんで思わず見とれていたんです』
何故か素直に、思っていることが伝えられた。少し紅くなった彼女は、
『もう』
と言って、店に入っていった。
先にテーブルについている、お袋達の視線を受けながら、まずはテーブルに付こうとしたら、彼女達の座っている席は二人掛けの物で、四人掛けも在るのに何故そっちに。
「俊哉、神島さんにご挨拶したら、向こうでつぐみさんと食事してなさい。私達は、こちらでお話していますから」
「織田俊哉です。つぐみさんとは、やっとお近づきになれて、出来れば正式にお付き合いさせて頂きたいと思っています」
『急に何言ってるの』
『色々考えていたんだけど、本心が出ちゃったんだ』
『まったく、もう』
姿は見えないが、彼女が赤くなっているのが感じられる。多分俺も赤い顔に成っていると思われるくらい、熱くなってきた。
「あらあら、つぐみの母の神島さとみです。この娘の何処をそんなに気に入ってくれたのですか?」
「いつも電車で見掛けていて、良い感じの人だと憧れていたんです。それが、今日一緒に行動するようになって、活発な一面など電車で見て想像していた姿とは違った面を見て、ますます好きに成りました」
「ありがとう、この子は親に遠慮してボーイフレンドなんか作らないーって感じだったから、今日運命の人と会った、なんて言い出して驚いていたのよ。お母様とお話しさせて貰いますから、つぐみと食べていらっしゃい」
「はい、よろしくお願いします」
「ふふふ、男の子は元気が良いわね」
「家の俊哉は、元気ぐらいしか取り柄がないので、つぐみさんに愛想つかれないといいんですけど」
等と、お袋通しの話が弾みだしたので、俺はつぐみさんの前に座ることにする。
あらためて、彼女の姿を見るとお袋の、”惚れ直した”という言葉を噛み締めている自分がいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます