第5話 えっ!そんな趣味

 カラオケボックスに3人がいる、いやふたりと一匹か。頭の中で大声を上げた彼女は、俺の脇のラルカをじっと見ている。


『わらわの美貌に我を忘れたのかえ』


 違う、きっと違うに違い無い。あれは見とれているのではなくて、怒りを堪えているんだ。だって、力強く握りしめられた手が小刻みに震えているし。


『キャーなんて可愛いの』


 えっ!可愛い?俺の横にいるラルカは20歳過ぎの細身の美人ではあるが、決して可愛い、というタイプではない。


『あのー、神島さんはどう言った趣味をお持ちなんですか?』


『趣味って?だってこの子とてつもなく可愛いじゃない』


 この子?自分とさして年も変わらない女性をこの子と呼ぶ、この感性は理解できない、今の俺には。


 キャー、キャー言いながら写メを撮っている姿は無邪気だが、撮っている被写体は妖艶な美女。なにかしっくりこない。


『あのー、神島さんにはどの様にみえてるんです?ラルカの事』


『もちろん、着物を着た七歳位の、お人形さんみたいな子よ』


 えっ!俺には裸に薄絹を纏った妙齢の美女に見えている。人によって見え方が違う。


『ラルカ、彼女とは君の見え方が違うみたいだけれど…』


『ああ、それはあちきが、見る者の見たい姿に似せておるからじゃ』


『見え方が違うって、なに?』


『ややこしいから、彼女にもラルカの言葉が届くようにしてくれる』


『そうかえ』


『あっ!喋った。やっぱり可愛らしい声ね』


 声も相手に合わせているのか。


『あー、あー、それはそうとして、こちらがラルカさん。蝉の女王さま』


『で、こっちが神島つぐみさん』


『はじめましてラルカちゃん』


 彼女には違って見えていると分かっていても、このギャップには耐えられない。


『こんな可愛い子だったら、私にとりついても構わないわ。話も出きるように成ったし』


『俺は?』


『そうだったわ、ラルカちゃん、あのおにーちゃんとの会話を切ることって出来るかな』


 完全に子供に話す口調だ。


『すまぬ、恩を受けたのはこの殿からゆえ、主に仕えることはかなわぬ』


『そーなの、残念。それじゃ私をこの会話の繋がりから外してくれる』


『それもかなわぬ。一度繋がった絆は容易にはたち切れんものじゃ』


『それって一生このままって事?』


 絶望の影が彼女の顔を過るのが見えた。


『なにか、解除する手だては有るよね、ラルカ。3人でこのままでいる訳にもいかないし』


『それは、殿達がつがいに成れば良いのじゃ』


『『「「えー」」』』

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