6日目

「にく、にく、はぁ、はぁ」

 リリアはうわ言のように「にく」と言い続けている。その瞳は虚ろで、口からは涎が垂れている。マジ怖い。

 昨日、美魔女?エリィが料理を作ってくれたことで、リリアは多少なりとも正気を取り戻したかと思われたが、今度は肉への渇望が顕現したらしい。

「いや、あるいはこれが正気なのか?」



 とりあえず肉肉うるさいので、肉を何とかできる人出てこないかな。



 ガチャ



 カプセルから放たれる光に浮かぶ、がっちりとした筋肉質な人影。


「屁のツッパリは──」

「いらんですよ!!」

 再び光に消える筋肉なマン。

「あ、あれもおいしそう……」

「怖いよ! 俺自身も身の危険を感じるレベルだよ!!」

「ブヒヒヒィィィン」

「……」

 どうしよう、従者と意思の疎通が図れない。



「見つけたぜ!!」

「はえ?」

 俺は予想だにしない声に、間抜けな声を挙げた。

 俺たちとは別の人間。人間!? リリアと従者以外に人間生き残ってたのか!?


 振り返りその姿を確認する。短髪で逆立つ赤髪、それを支えるようにまかれたバンダナ。黒い革製の上下スーツを着込んでいるのに、なぜか袖が無い。敢えて袖を破った感じ? そして同じく黒い革製の指ぬきグローブ。

「い、いやはや、何とも」

 ずいぶんとアレなファッションセンスだな。


「お前が"ガチャ"の名を継ぐとい言う野郎だな!」

「いや継いでない。あいつが勝手に召喚んで、勝手に呼んでるだけだ」

 俺は亡者のようにうろつくリリアを指さしながら言う。

「俺はお前を認めない!」

「話聞いてた?」

 なんだろう、生き残った人間って、残念な奴ばっかりなのか? それともこの世界全体の傾向なのか? サンプル数が少なすぎて判断できん。

「お前に、"ガチャ"の名を懸けて、ガチャバトルを申し込むぜ!!」

「なっ! おいやめろ! その小学生向け漫画雑誌に連載しているホビー系漫画に出てくるみたいなノリに俺を巻き込むな!」

 ガチャで勝負の次は、ガチャで世界征服する組織とか出てくるんだ、きっと。

「が、ガチャバトルですって!?」

 リリアが唐突に反応する。

「リリア、知っているのか? なんて俺は言わないぞ! 民明書房出典の解説とか語り出すんだろ? 俺は言わないからな!! っていうか、お前さっきまで亡者みたいにうろついてたのに、いきなりシャキッとしすぎだろ!!」

「ガチャバトルとは……」

「結局語るのかよ!!」



 ガチャバトルとは、ガチャ二世時代にまでさかのぼり……



「そんなに何人も居たの!?」



 次代の"ガチャ"の名を継ぐ者同士で行われる勝負。コインに認められし者たちがお互いにガチャを回し、出てきた景品で戦うという……



「ついに景品って言ったよ!」



 出てきた景品プライズで戦うという……



「ルビ振っても言ってる内容一緒じゃねぇか!!」


「俺のコイン! 受けてもらう!!」

 袖なし男は俺に向けてスタミナコインを投げつけてくる。当然俺は避けた。

「なっ! 避けるとは!! ガチャバトルを侮辱するか!」

 いや、そんな白い手袋投げつけて決闘を申し込むみたいなノリで投げられても……。ってか、コイン当ったら痛いだろうが!!


「立会はわたくしが務めます」

「勝手に話進めんな」

 先ほどまでの亡者のような姿とはまるで違い、王女然とした姿でリリアが立つ。さっきまでのアレはなんだったんだよ!!


「勝負は……、わたくしを満腹にした者を勝者とします(ぐぅぅぅぅぅ)」

「完全に自分の欲望優先したよね!? 食べ物欲しいだけだよね!?」

 いや、結局亡者的なアレは変わらないらしい。


「レディィィファイッ!!」

「強引すぎぃぃ!!」

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