17日目

 手元には2枚のスタミナコイン。ついに今日、初の"指名ガチャ"を行う!


「はよっ!はよっ!」

 マリアが血走った目で、首輪を振り回しながら俺を急かす。隙を見て取り付けるつもりなら、もう少し隠す努力をしましょうよ……。


 まぁ、前回ジュン君はマリアの猛攻を悉く回避していたし、いきなり拘束されることはないだろう。召喚直後の不意打ちだけは、俺が注意しておいてあげないとな!


 俺は2枚のスタミナコインをガチャ装置に投入、ハンドルに手を添える。


「出でよ! 勇者タケモト・ジュンイチ!」

 とりあえず指名ガチャの作法はよくわからんから、名前を宣言してみた。

 俺は"ジュン君こいこいこいこい"と念じながらハンドルを回し──、


 回し──


 回し──



「硬っ!!」

 ハンドルがめっちゃ硬い! 回らないことは無いけどめちゃ硬い!


「ぬぐぅぅぅぅぅ」



 ガコンッ



 魔法陣から爆発的な光が溢れる。いつも以上の光量だ。


「ひゃっはぁぁぁぁぁぁ!!」

「しまった!」

 マリアの奴、光が晴れる前に飛び込んでいきやがった! 俺も視界がほぼ効かない中へと飛び込む。が、案外早くマリアを掴むことができた。

「ん?」


 光が消え、俺が掴むと掴まないとに関わらず、マリアは茫然と立ち尽くしていた。視線の先には剣が1本。アレは確か、ジュン君が使っていた剣だ。あの時は雷を発していた……。そしてその横にあるのは、白骨死体。


「え……、ジュン君?」

 へんじがない、ただのしかばねのようだ。


「……」

「……」

 俺もマリアも、しばしその場で茫然と立ち尽くした。


 どこか空虚な風が吹く。明るく元気だったジュン君の声はもう聞くことができない……。そんなに思い出があるわけじゃない。でも魅力的な人物だったと思う。ああいう人が"主人公"ってなのかな……。ピンク頭の言うとおり、周りに好かれるのもわかる気がする。


 俺はガチャ装置の上にある送還ボタンに手を添え、それをゆっくりと押す。

 ジュン君の剣と、ジュン君だった"もの"は光と共に消え、ガチャ装置からはコインが2枚返却されてきた。


「……」

 やっぱり、前回ジュン君を拘束しておくべきだったか。今更な話だが……。



 どうしようか……、なんか一気にテンション下がったな。


「普通に回しとくか……」


 俺はコインを1枚ガチャ装置にセットし、ハンドルを回した。

 先ほどとは違って軽く回せる。さっきのは"指名ガチャ"だったから重かったのか、それとも対象者が"死亡"しているから重かったのか……。とにかく今回はいつも通り、ハンドルは軽く回った。



 ガチャ



 魔法陣から光が溢れ……、だがその光は黒く染まり、闇色になっていく……。

「え、な、なんだ!?」


 闇のカーテンの中から現れたのはピンク髪の少女。いつも話を聞かないアイツだ、が、何か様子がおかしい。


「ジュン様……、どうして、どうして死んでしまわれたのですか……」

 ピンク髪の少女は、茫然と立ち尽くしたまま、小さな声でつぶやく。光の無い瞳からツーっと涙がこぼれる。


「あぁ、許さない、ランス……、あいつが裏切ったから……」

 不穏なことを口走るピンク髪少女の周囲に、黒い燐光が漂う。

「な、なんか、ヤバげ……?」


「あいつだけじゃない……、どいつも、こいつも……、あれだけジュン様に助けられておいて……」

 黒の燐光は濃密さを増す。


「ジュン様がいない、ジュン様を殺した、こんな世界なんて……」



 ──こんな世界、消えてしまえ



 ピンク髪少女の周囲から黒いオーラが吹き上がる。


 ──うおぉあぁぁぁ……

 ──うぼぁぁぁぁぁ……


 地の底から響く不快な唸り声と共に、あちこちの地面に黒い染みが広がる。


「ま、マズイ!!」

 俺は黒いオーラが巻き起こす風に抗い、ガチャ装置に接近していく。



『我、サリアトゥーレが命ず、異形どもよ、世界を滅せよ……』

 とてもピンク頭少女が発したとは思えないような底冷え声が響き、黒い染みからは異形の怪物たちが這い出して来る。


「そ、送還!!」

 送還ボタンを叩いた直後、周囲が真っ白に染め上げられる!


 光が消えると、ピンク頭少女も、周囲に出現していた黒い染みも全て消えていた。 


「あ、あぶなかった……」

「い、今のは……」

 マリアは顔面蒼白で震えていた。


【世界の異形率99.8%】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る