最終日
「ジュン君死んで闇落ちしてるし!」
今更ながらのツッコミだ。昨日はそれどころじゃなかったので。なんか陰謀めいたことも言ってたし、あっちの世界もいろいろあるらしい……。
マリアは昨日から顔色が真っ青のままだ。よほど怖かったのだろうか……。
「ガチャ様……、昨日の少女ですが……」
もう呼び方を訂正するのも面倒なので、そのまま先を促す。
「"サリアトゥーレ"と言っていましたが、お心当たりはございませんか?」
"我、サリアトゥーレが命ず"とか言ってたから、あのピンク頭はサリアトゥーレって名前なのはわかる。わかるが、心当たりとな?
マリアは俺の反応にため息をつき、ヤレヤレといった様子だ。ぬぅ、なんだこの苛立ちは……。
「この世界に異形が現れたのは約50年前、"異形の神ゴア・サリアトゥーレ"が多くの異形を生み出しました……」
ほぅ、似た名前の人がこの世界にもいるってことか……。
「わかりませんか? 昨日のあの少女が"異形の神ゴア・サリアトゥーレ"です! 地から現れかけた異形も、今この世界を蹂躙する異形と同じモノですっ!」
「なっ!」
つまり、俺は"異形の神"をガチャで呼び出した!? それはつまり……
「どういうこと?」
「てぇい!!」
「ごばっ!」
マリアの正拳突きが俺の鳩尾にめり込んだ。俺はそのまま崩れ落ちる。
「な、なぜに……」
「いいですか!? 昨日現れたのは"異形の神ゴア・サリアトゥーレ"、その人です。あなたは約50年前のこの世界の人を召喚していたのです!」
「ぬ……」
つまり、ジュン君たちは異世界の人ではなく、この世界の過去の人だったということか。
「"異形の神ゴア・サリアトゥーレ"を何とかできれば……」
マリアが爪を噛みながら何かを考えこんでいる。
ピンク頭が異形の神に変じた。それはジュン君が死んだせいだ。んで、ジュン君が死んだのは「ランスの裏切り」とか言ってた。
「あー」
あれか! ランスロットの野郎、ジュン君捨ててエリィに付きやがったのか! いや、捨てたって言い方はジュン君に申し訳ないけども! むしろランスロット捨てられろ!!
ランスの野郎、ジュン君みたいな良い人を裏切ってオカマ魔王に付くとは不届きな奴だ。何とかランスに一泡吹かせられないものか……。
「あっ! マリア!!」
「え、はい?」
俺はスッと立ち上がり、マリアを呼ぶ。
「首輪と、あと相手を押さえるための人員だ!」
「は、はい」
俺の指示を受け、マリアは急いで城へと戻り、10名ほどの兵士を連れて戻ってきた。兵士は魔法陣を取り囲むように待機させ、マリアには首輪を持たせる。
準備が整ったことを確認し、俺は手元のスタミナコイン2枚をガチャ装置に投入する。
俺のガチャは50年前の人を現在に召喚した。もともと異世界の住民を召喚するガチャだが、このガチャの能力は"次元"を超えるだけでなく、"時空"を越えられるらしい。だからこそ50年前の人物も召喚できた。
時空が越えられるなら、指名ガチャで"人物を指名"するだけでなく、"時間も指名"できるのではないか。
俺は呼び出す対象と、その時間を強く念じながらハンドルを回す。ハンドルは思いのほか軽く回った。やはり前回は対象者が"死亡"していたから重かったようだ。
ガチャ
魔法陣から強い光が放たれ視界が白で埋まる。中からかすかな人影が……
「む? ここは?」
そこに居たのは初回召喚時と同じ反応のランスロット。
「確保ぉぉ!!」
「な、なんだ貴様ら、吾輩は"光の刃"の異名を持つ──」
ランスロットは10名の兵士に事もなく取り押さえられ、首輪が取り付けられた。首輪が猿轡みたいになってますけど、それで取り付け成功なのですよね?
「はーい、その人地下牢にでも入れといてくださーい」
「んんんんんーっ!!」
ランスは何やら言葉にならない何事かを唸りつつ、兵士に引きずられて行った。
「やった! ハッピーエンド!!」
「こ、こんなんでいいのかしら……」
こうして、世界から異形は消えましたとさ。
【世界の異形率0.00%】
「それで、俺はいつ帰れるの?」
「ん?」
俺の問いに、マリアは可愛らしい仕草で首をかしげる。う、うぜぇ……。
「まさか、帰る方法が無いとか──」
その時、俺の体を取り巻くように白い燐光が漂い始める。
「お、もしかして自動で送還?」
なんだ帰れるのか。と思ったら、マリアは戦慄の表情を浮かべながら激しく首を振っている。
「え? なに? 違うの?」
白い光に飲み込まれながら、俺が最後に見たのは、シシオドシのように激しく首を上下に振るマリアだった。
「というわけで、勇者を召喚していただきたいのです」
絹のような光沢のある生地で作られたライトグリーンのドレスを纏い、漆黒の美しい髪にゴールドのティアラが映える超絶美少女が、俺の前でそんなことを言う。
「またかよっ!!」
おしまい
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます