15日目

 転生勇者とか大器晩成の極致だよね。戦力になるために最低10年はかかる。そう思うと、転移にしても転生にしても、異世界関係の勇者って異世界出現直後からの"即戦力"って多くないんじゃなかろうか……。いや、そうでもないか、最初からチート100個持ってるとか、ソレ系なら即戦力だな……。


 そう思うと、ジュン君はなかなか稀有な例だったかもなぁ。成長チートでもないし……。いや、どんな恩恵貰ってるのか知らないけどね。名前的には転移系勇者だと思うけど……。


 ここまでの14日間を振り返ると、好成績だったのはジュン君とオカマ……。なんだろう、このジュン君一択感。こうなるとジュン君をご指名したくなるなぁ。


「追加料金を払えば、指名ガチャもできますわ!」

「怖いよ! 俺の心読んだのか!?」

「いえ、声に出ておりましたわ」

 あ、そうですか……。


 でも、指名ガチャか……。やってみたい気もするけど、確かスタミナコイン2個必要だったよなぁ……。俺は手の中にあるコインを見る。当然1枚しかない。2枚となると1日お休みする必要がある。もし毎回指名ガチャしようと思ったら、2日に1回しか回せない。

 ふと視線を上げると、マリアが薄気味悪い笑みを浮かべながら"拘束の首輪"をカチャリカチャリと鳴らしている。その瞳に覗く深淵は底が知れない……。

 こえぇぇよ! 王女がしていい表情じゃねぇよ! もう俺の前で一切取り繕わないなコイツ!


「とりあえず今日は普通にガチャる!」

 一瞬マリアが何か言いかけた気がするが、俺はそれに構うことなくコインを投入し、ハンドルを回す。



 ガチャ



 魔法陣から光が放たれ、その中に人影が浮かび上がる。


「この戦いが終わったら、あ、あの、私と、その、結婚を──、なっ!!」

 衝撃告白と共に出現したのはピンク髪の魔法使い風少女。あー、以前見たことあるなぁ……。たしか、「一人で旅立ちなど、なぜですか」とか怒ってた人だ。前回も今回も、出現の第一声は叫んでるな。

 ぼんやりとピンク髪の彼女を見つつ、前回出現時のことを思い出していたところ、何を思ったのかピンク髪の彼女は顔を真っ赤にして怒り始めた。


「ど、どういうことですか!! ここはどこですかっ!」

 すごい剣幕で俺に詰め寄ってくるピンク。

「え、あ、その──」

「あ! あなた以前の!! またですかっ!! なんなんですか! 無断で呼び出したりして!! よりによってなんで"今"なんですかっ!! 私がどれだけ勇気をだしたか! これまでもいいタイミングでいつも邪魔が入って! 何度もチャンス潰されて、やっといい雰囲気になって、やっと伝えられるって……、もう今しかないって……」

 最初の剣幕からだんだんとトーンが下がり、最後には俯いてシクシクと泣き始めてしまった。

 俺は助けを求めるようにマリアを見るが、マリアは素知らぬ顔をしている。くそぅ……。


「いいんです、ジュン様はたくさんの人に想われてますから、私なんてどうせ……、ブレンダのほうがスタイルはいいし、アマリアのほうが気立てが良くて料理が上手だし、ソフィーの癒しや包容力にはかないませんし、いつも背中を任せるのはランスロットですし、みんなジュン様が大好きですし……」

 なんかしゃがんで枝で地面をほじくりながらブツブツと独り言をつぶやき始めた……。一人、明らかに男の名前混じってるよね? ランスロットってアレか? "光の刃(笑)"か?


「私なんてチンチクリンでスタイルもアレだし、料理もだめ、護られてばかりで包容力も無いし……」

 完全にスタンドアローンなネガティブスパイラルに突入している。うむ、めんどくさい。

「えっと、そのー、ピンクの髪で可愛いんじゃないかな……」

 俺の適当な励ましに対し、ものすごい顔で睨まれた。ちゃんと聞いては居るらしい……。


「あー……、応援してるからっ!」

 居たたまれなくなり、俺は送還ボタンを押した。ピンクの彼女は光の中へと消えていった。



 なんかものすごく疲れた……。

 ガチャ装置からコロンという、"もう一回ガチャれちゃうんだぜ?"という無情な音が聞こえる。


 俺はため息をつきながら、コインを再投入してハンドルを回した。



 ガチャ



 魔法陣からあふれる光。その中に映る人影は、どうやら胡坐をかいて座っているらしい……。


「エリィ、ジュン殿、吾輩はどうしたら……」

 胡坐状態で頭を抱えて悩む、自称"光の刃"こと、ランスロットが居た。

「うわぁ……」

 また面倒なのが出てきた。こいつ前回ガチギレしてきたから強制送還したんだよなぁ……。


「えーっと、ランスロット……さん?」

「ジュン殿は……、共に戦う仲、そういう想いは……。エリィのことは……、このままでは……」

 俺の声は聞こえてないらしい。ジュン君とエリィがなんだって?


「あーっと、もしもーし」

「ジュン殿を裏切れない……、でも吾輩はエリィが……、このままでは二人が……」

 結構大きな声で話しかけたのに、全く反応が無い。え、何、こいつまたダメなの?



 その後10分ほど様子を眺めていたが、一向にこちらに気づくことはなかったため、仕方なく送還した。

 うーん、一時の順調な状況から一転、ちょっと良くないスパイラルに入ってる感じだなぁ……。


【世界の異形率94.5%】

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