4日目

 4日目にして初めて世界を覆う"異形"について聞いた。なんで今更とか言ってくれるな。聞くタイミングを逃したんです。

 約50年前、突然「異形の神ゴア・サリアトゥーレ」が出現し、数々の異形を生み出し、さらに異形が眷属として異形を生み、また異形を……、ネズミ算式に増えた結果が今だそうで。


「この世界の"救世主"となっていただける勇者様は、現れてくれるでしょうか……」

 話をしつつ、珍しくマリアが落ち込み気味になった。この4日で何人も勇者を呼び出したが、世界の異形率は0.6%下がっただけだ。4日間で0.6%ということは、1日あたり0.15%……。この調子で残り99.2%をひっくり返すには、えーっと……、660日くらい? アレ? 2年くらいでいけるんじゃ……、結構順調じゃね?


「いや、この危ないガチャ2年も回したくねぇよ!!」

 俺の唐突な叫びにマリアがビクッとはねた。



 今日もいきなり手の中に現れたコインをガチャ装置にセットする。救世主、救世主ねぇ……。

 俺はハンドルを回そうとして、ふと気が付く。ヤバイ。こんな救世主って呟きながら回したら、世紀末の救世主伝説様が出現しかねない。そんで、「ああ! この方は一子相伝の殺人拳 北斗──」「ほぁたぁっ!!」ってやる未来が幻視される。あぶないあぶない。


「よし、一旦落ち着こ。こういう時焦ったら負けだからね」

「え、あ、はい」

 俺の唐突な深呼吸に、マリアもつられて深呼吸する。別にマリアは真似しないでもいいと思うけど、気にしたらこれも負けだ。



 俺は無心、明鏡止水の心境でハンドルを回す。



 ガチャ



 光の中にはいつもに増して大きな何かが現れたような気配がする……。


「なっ!」

「あぁ……、これは……」

 十字架だ……。そこに人が磔になっている……。


「エェェェェイメェェェェン!!!」

 俺はダミ声で叫びながら送還ボタンを叩く。十字架は光に消えた。


「やべぇ。いままでで最高にヤバイのが出てきた。アレは本当にマズイ」

 マジもんの救世主様が出現した。世紀末どころじゃなかった。


 俺の焦りなんて知ったことではない。と言いたげにガチャ装置からコロンとコインが飛び出す。くそっ、だんだんクーリングオフが忌々しくなってきた……。




 俺はコインを投入し、再びハンドルに手をかける。そのままスーハーと深呼吸を数回。したところで、さっき深呼吸して結果がアレだったことを思い出し、微妙な気分でハンドルを回した。



 ガチャ



 今度はそれほど大きな何かという感じではない。光が晴れた時、そこには一人の女性が居た。


「え、あれ?」

 女性は戸惑った様子でキョロキョロと回りを見ている。服装は白いチュニックに黒のパンツだ。いたって普通の日本人女性といった風情だ。なかなか美人だな……。


「あ、すみません、俺、葛山くずやま あたると言います。」

 俺の自己紹介に、女性は戸惑いつつも応じてくれた。

「ワタシ、加古川かこがわ 可馨クゥシントいいマス」

 ん? なんかちょっとイントネーションが独特だ。そして名前が異国情緒あふれている。


「その、失礼ですが、もしかして海外の……?」

「ハイ。ワタシニッポンに帰化してマス。旧姓はシュウいいマス」


 へぇ、日本人と結婚した元外国籍の奥さんか……。旧姓は周……。旧姓周……。


「ダジャレかよっ!!」

 俺のツッコミは誰にも理解されず、空しく庭に響き渡っただけだった。




 人妻 可馨クゥシンさんは、なんと拳法の使い手だった。人妻すげぇ。

 そして、タケモト君と豆腐よりも強かった。人妻すげぇ。


【世界の異形率98.0%】

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