2日目
王女の名前はマリアウーレというらしい。とりあえず"殿下"と呼んだら、「マリアとお呼びください、ガチャ様!」とか言われたので、ひたすら"殿下"を連呼しといた。
朝起きて、朝食をいただき、気が付いたら右手にスタミナコインを持っていた。ほんと、いつの間に手の中に入り込んでくるんだ、この上腕二頭筋コインは……。
「さぁ、今日こそは!!」
マリアは気合が入っている。99.8%が異形の世界でも、彼女は明るい。王族の責務とかだろうか。まあいいや。
昨日のこともあり、俺はいやな予感しつつガチャる。
ガチャ
光に包まれる魔法陣。そしてそこから人影が浮かび上がる……、剣を背負っている? そして緑の服……。
「ああ!! 過去召喚された勇者でも有数の実力者! リ──」
「はいドーン!!!」
即座に送還ボタン。
「緑衣の勇者で、退魔の剣を持ってて、そんでいろいろな道具を駆使して数々のダンジョンを踏破、ついには神の力を……って、昨日より危ねぇじゃねぇか!! そのうち世界的に有名なネズミとか出てこないだろうな!? こんな過疎小説吹いて消えるぞ!!」
「いえ、ネズミの勇者として記録されているのは、電気を操る──」
「そっちかよ!!」
マリアは例の本を捲りながら、新たな地雷を敷設してくる。いろいろと危ないな、あの本。恐ろしくて中身は到底開示できない……。
っていうか、ネズミって勇者としてカテゴライズしていいのか……?
1日1回のクーリングオフであるため、ガチャ装置からコロンとコインが出てくる。ああ、もう一回やれってか……。
「もうガチャるの嫌なんですけど……」
マリアが俺の後ろで「さぁ! さぁ!」とはやし立てる中、俺は再度コインを投入し、ガチャガチャとハンドルを回す。
ガチャ
魔法陣から再びあふれる光。もう、この演出スキップできないですかね……。
「旅立ちの荷物がこんな棒と金貨1枚だけって!!……あれ?」
その人物は、叫びながら光の中から現れた。ジャージ姿で木の棒を持ち、手には金貨を持っている。
あー、いわゆるアレだね。勇者の旅立ちといえば、王様から木の棒と薬草ちょっと買える程度のお金しか持たされない、っていうアレだね……。
「……」
マリアも無言で例の本を捲っているが、どうやら彼の情報は無いらしい。
「えっと、ここは?」
とりあえず、俺は自己紹介しつつサラっと状況を説明。主に異形が世界の99.8%を占拠してるっていう説明。ちなみに彼は"タケモト・ジュンイチ"君と言うらしい。
「まぁ、なんと酷い……」
棒切れ1本に金貨1枚で出立を強要される境遇について、マリアが同情しているようだ。さも「うちの王室はそんなこといたしませんわ」と言いたげだ。タケモト君世界の王室に対してマウント取ってるんだろうか……。
「死ぬことは、無いんですね……」
タケモト君は木の棒を握りしめつつ、確認するように呟く。召喚された勇者は適当なタイミングで送還される。なので、たぶん死なないだろう、おそらく……。
タケモト君の瞳に力強い決意を思わせる光が宿る。どうやらやる気になっているらしい。
「僕は勇者として旅立たなきゃいけないんです……、なら、ここでの経験もいい訓練になるかもしれない」
すごい前向き。俺には到底理解できないわ。俺だったらこんだけ引っ張りまわされたらガチギレする。
「わたくしから、ささやかですが武器や防具をお贈りしますわ!」
マリアは"どこかの王室とは違う"ということを見せびらかすように、王国兵士の装備一式をタケモト君に譲った。"宝物庫のお宝装備"とかでないあたりが微妙にせこい。
「いってきます!」
ジャージ姿とはうってかわって、なかなか兵士装備が様になっているタケモト君は、一人異形どもの闊歩する王都外へと向かって行った。
結果としては、さすが勇者。なかなか強かった……。良い経験になったかねぇ……。
【世界の異形率99.5%】
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