毎日1回、勇者召喚ガチャ!神レアはクーリングオフ案件!?

たろいも

第一部 王都でガチャ

1日目

「というわけで、勇者を召喚していただきたいのです」

 絹のような光沢のある生地で作られたライトピンクのドレスを纏い、黄金の川のように流れる美しい髪にシルバーのティアラが映える超絶美少女が、俺の前でそんなことを言う。

「なにが"というわけ"なので? 俺は今まさにこの場所に出現したばかりでなにがなにやら……」

 この場所は広い庭のような場所だ。一面とても手入れの行き届いた芝生で、色とりどりの花をつける木に囲まれている。木の向こう側には壁があるらしく、そういう意味では壁に囲まれた庭的な空間だ。

 そんなとにかく広い庭のど真ん中。なぜかここだけ不自然に石畳であり、明らかに"っぽい"感じの円形図が描かれた中央に、気が付けば俺は突然立っていた。


「詳しくは"あらすじ"をご覧ください」

「あらやだ、この子メタい」


 俺は"葛山くずやま あたる"、25歳。なんの変哲もない会社員で、毎日しこしことソシャゲをいじるのが趣味だ。ガチャ運は"相当"であり、自他ともに認めるクソレアマイスターである("他"が誰のことを指すのか、その点については突っ込んではいけない)


「さぁ! 早速お願いします!!」

 魔法陣のすぐ脇。そこには、ガチャ装置があった。こういうのスーパーとかで見たことあるわ。懐かしいな、小学生のころは親にねだってガチャガチャさせてもらった覚えがある……、って

「え、いつの間に!? さっきまでなかったよね!?」

 気が付けば右手には金色のコインを握っている。コインには"腕に力こぶ"のマークが書かれている。え、これスタミナって意味? なに、そのへんって異世界共通なの!?


「ちなみに、そちらの装置の上に付いているボタンが"送還"ボタンです」

 ガチャの上に赤くてデカいボタンが付いている。うん、叩きやすそうなデザインしてる。

「まぁ、そんなに送還ボタン使うこともないでしょ……、きっと」


 俺は自然とそんな"フラグ"を立てつつ、自然な動作でコインを投入し、ハンドルをぐるぐるする。



 ガチャ



 ガチャ装置からは何も出てこないが、音に呼応するように魔法陣が光を放つ。


 光の中から、徐々に姿が見えてくる。最初に見えたのは腕に取り付けた盾らしきもの……、アレ?

「おぉ~、この方は!」

 ピンクドレスの娘……、そういえば名前も知らないな、たぶん王女だ……、とりあえず王女でいいか。王女は手に持った本のページを勢いよく捲り……


「過去の伝承にもあります! この方は盾の──」

「アウトォォォォ!!」

 俺は刹那で送還ボタンをぶったたいた。


「ヤバイって! え!? 何!? そういう系が出てくるの!?」

 俺の嘆きを他所に、ガチャ装置からコインがころんと飛び出した。どうやら本日1回目であるため、クーリングオフが成立したらしい。


「な、なんと残念な……、伝承によると今の方は盾の──」

「Stop!! それ以上はシャラップだぜ!!」

 いろいろとマズイ。そこに触れたらダメだ。


「でも大丈夫です、まだ今日はもう一回できます!!」

 王女はさほど気にした様子もなく、俺に次を促してくる。


「えぇ~、マジ怖いんですけど……」

 俺はしぶしぶコインを投入し、ガチャった。



 ガチャ



 再び魔法陣が光を放つ。


 光の中から覗くトレンチコート……。

 光が晴れたとき、そこに居たのはトレンチコートを纏った中年男性だった。だが、なんだろう。何か違和感がある……。


「こ、この方は……?」

 どうやら王女の持つ情報にも載っていないらしい。どういう勇者なんだろうか?


 呼び出された男は周囲をぐるりと確認し、王女に目を止めるとその瞳に鋭い光を宿した。


「っ!?」


 次の瞬間。男がトレンチコートを翻した。



 ぱおーん



「あ、そういう勇者……」

 送還した。


【世界の異形率99.8%】

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