第4話冬 二人きりのメリークリスマス
誰もいないオフィスの中でただひたすらに仕事をこなす。
今日はクリスマスだというのに虚しいものだ。
「お疲れ。」
ビニール袋をもちひらひらと手をふりながら
今いるはずのないあいつがこっちへむかって歩いてきた。
「…なんでお前がここにいるんだ。さっき帰ったんじゃないのかよ。」
「クリスマスに一人で仕事なんてつまらないだろうと思って。ほらこれ差し入れ。」
「別に家に帰っても誰もいないからな。仕事してる方がましなんだよ。」
そう誰も。
もう誰もいないのだ。
パソコンを打つ手が少し遅くなる。
パソコンの横にコンビニで買ってきたらしいクリスマスケーキが置かれる。
これはトナカイの顔だろうか。
イチゴでできた赤い鼻が結構かわいい。
「最後の二つだったんだ。
最近のコンビニは本当すごい進化してるよな。」
「まぁ確かに。」
いかん。誤魔化されるところだった。
「とりあえずこれは受けとるが…
今日はクリスマスだろ。さっさと帰って家族と過ごせよ。」
「んーほら昨日祝ったから。
今日は別に。」
いつの間にか、俺の横に立ち手をつくとディスクにもたれ掛かった。
「おい。邪魔するな。」
「そんなこと言うなよ。俺たちの仲だろ?」
首元に手が回りそっと顔が近づき頬を寄せる
「俺と別れた途端すぐ結婚したくせに。」
「俺だってお前とずっと一緒に居たかった
けどさ、仕方なかったんだよ。」
耳元にふっと息がかかる。
「!!!」
「ここ弱かったよな…。
変わってないな。お前。」
あぁ変わってないよ。悪いか。
俺はまだこいつが好きなんだから。
そんなに簡単に変われたら苦労しないんだよ
「なんだよ。なんなんだよお前。
一体どうしたいんだよ。」
「さぁ…俺にもわからないよ。
ただお前のことが今でも好きなんだよ。
それじゃダメか。」
ずるい。ずるすぎる。
それを言われたら何にも言えない。
「メリークリスマス。」
銀色の指輪を外しポケットにいれると
顎に手をおかれ顔を上へと向けられる。
それを合図に俺は目を閉じた。
今日はクリスマスだから。
明日からは上司と部下に戻るから。
だから今日だけはあいつの恋人でいさせてくれ。
短編集 春夏秋冬 石田夏目 @beerbeer
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