第2話 夏は蝉時雨とともに

今日は雲ひとつない快晴です

雨が降る心配はないでしょう


テレビの天気予報と言うのは全くあてにならないものだとつくづく思う。



鞄を傘がわりにしながら

急いでコンビニに駆け込むとビニール傘は最後の一本になっていた。

その一本に手を伸ばす。


「「あっ」」

思わず声が揃ってしまう。

声の先をみると首に社員証のようなものをぶらさげたショートカットの女性と目があった。

かなりの美人だ。

この辺りで働いているのだろうか。

少し息があがり髪の毛からは水滴がぽたぽたと落ちている。


「あのこれ。使ってください。」



「いっいえ…それは申し訳ないです。

体凄く濡れてますし。

そのままだと風邪をひきます。」


「それはお互い様ですよ。

俺このまま駅まで走るので大丈夫です。」



「私も駅までなんです。

…あのよければこれ一緒に使いませんか」

まさかの提案に思わず首を横にぶんぶんとふる。


「でも、ほら外すごい雨ですし。

もしかして嫌ですか?」

いや、全然嫌ではない。

むしろこんな美女と歩けるなんて幸運以外の何物でもない。

雨様様だ。


「けどいいんですか…その俺となんて」

正直俺は全くイケメンではないし

背も彼女より少し低い。

隣に並ぶのが恥ずかしくないのだろうか。


「はい。

きっとこれも何かのご縁だと思うんです。」


傘を持ちレジで会計を済ますと

彼女と一緒に歩きだした。

まわりの男達が皆振り返り羨ましそうな目で見つめている。

…なんか悪いな。

でも今日だけだから許してくれ。


相合い傘なんて生まれてはじめてだ。

まぁそれがこんな美女とすることになるとは想像もできなかったが。

しかもどことなくいい匂いがする。


「あの。」


「はい?!」


「せっかくですしなにか話しませんか」


「何か…」

こういう時に気の利いた会話の一つも思い付かない自分が情けない。

来世はイケメンで会話も上手く背の高い

男に生まれますように。


「あの、きょっ今日は本当すごい雨ですねー。」

馬鹿か。俺は。

そんなの見れば分かるだろう。


「ええ。でも私雨嫌いじゃないんです。」


「え?どうしてですか。」


「雨の音が好きなんです。

なんだか心地よくて。」


「俺も好きなんです。

雨の音。」

まさか雨の音が好きな人に出会えるとは思ってもいなかった。

その後も他愛のない話が続く。

このまま雨が止まなければいいのに。


「あれ?もしかして雨やんだのか?」


傘をすっと下ろし手を出す

どうやら雨はあがってしまったようだ。


「あの。ありがとうございました。」


タイミングよく駅についてしまう。

時間ってこんなに経つのが早かっただろうか


「あっはい…。」



いいのか。俺

本当にこのままで。


「「あの!」」


再び声が重なり思わず顔を見合せ笑うと謎のゆずりあいがはじまった。


「じゃあ私から…」


「はい。」


「あの、よければなんですけど…れっ連絡先をこっ交換しませんか?

へっ変な意味ではなくて!このお礼がしたいといいますか…」


スカートをぎゅっと握りしめゆでダコのように真っ赤な顔してうつむいている。

上を見上げるとさっき雨が降ったとは思えないような青空が広がり蝉の音が聞こえ始めた


蝉時雨か。

蝉が鳴く音がやけに大きく聞こえた。


「名前。

まずは名前教えていただけますか。」


俺たちの夏はまだまだはじまったばかりだ。





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