奇妙な世界で過ごしてみたけど。

 あの変な招待状のせいで、年齢が逆転してしまってから、もう一週間。その間、色々な事があったなあ。

 まず驚いたのが、今の私は10歳だから、当然小学校に通わなくちゃいけなかったんだけど、何と教室に行くと、私と同じように小さくなった高校のクラスメイトがそこにいたのである。


 特に驚いた様子も見せずに、「さーちゃんおはよう」なんて言ってきたのは、親友の霞。霞とは高校に入ってから知り合って仲良くなったんだけど、小学生になったこの子を見るのは不思議な気分だ。平然としている所を見ると、どうやら彼女にとってはこれが当たり前のようだ。それどころかよく見たら、高校のクラスメイト全てが、同じように縮んでそのまま小学生になっている。クラス丸ごと、小学生になっちゃってた。どうやらここは、そういう世界なのだろう。招待状、アンタはいったい何がしたいの?


 中身は高校の私にとって、小学校の授業はつまらなさすぎて、軽い拷問みたいだったけど、サボるわけにもいかなくて。毎日ちゃんと、学校には通っている。

 まあ授業はつまらないけど、小学生になった霞や他の皆を見るのは、ちょっと面白かったりもした。


 だけど、楽しんでいられないことだってもちろんある。明日から二連休と言う金曜日の夜、私は家で八雲と一緒に夕飯をとっていた。食べているのは、八雲が作ってくれたカレー。これくらい私だって作れるのに、手伝わせてもらえなかったことを寂しく思いながら、口に運んでいる。


「そう言えば皐月、明日は友達とどこかに遊びに行ったりしないの? クラスの男の子に、今度遊ぼうって言われたっんじゃなかったっけ?」

「ああ、基山のこと? 確かに言われたけど、行かなくていいかな。明日は家の掃除や洗濯をしなくちゃいけないもの。あと買い物も」


 明日は休みだと言うのに、八雲は朝からバイトを入れている。その分私が、家事をこなすんだ。誘ってくれた基山には悪いけど、家事の方が……八雲に負担をかけないことの方が大事なの。


「勇気を出して誘っただろうに、基山君可哀想。それじゃあ霞ちゃんは? あの子が飼ってる、ゴールデンレトリバーのハチミツくんと遊んでみたいって、前に言ってたよね」


 う、それはとても魅力的。霞の愛犬のハチミツ、写真で見せてもらったけど、もふもふしてて可愛かったんだよね。だけど……


「いいの、明日は家の事をするって決めてるんだから」


 せっかく小学生になったのだから、気ままに遊んでみたいかなーって気持ちも、少しはあったけど。でも、もうやるって決めてるの。だって八雲、普段は全然、手伝わせてくれないんだもの。本当は私が姉なのに。

 だから自由に動ける明日くらいは、家事の全てを私がやるんだ。体が小さくなったせいで、荷物の持ち運びが大変な買い物はやりにくくなっちゃってるけど、何往復かすれば大丈夫だから。だけどこんなに意気込んでいるのに、八雲は悲しそうな顔をする。


「皐月、家の事を考えてくれるのは良いけど、もう少しのんびりしても良いんだよ。まだ子供なんだから、ちゃんと遊ばなきゃ」

「そんなこと言ったら、八雲だってまだ高校生じゃない。なのに面倒なことは任せきりで、私だけ遊ぶだなんてできないよ」

「皐月……」


 訴えかけるような目をしてくるけど、こればかりは譲れない。だいたい、八雲は過保護すぎるのよ。私は平気なのに、一人で背負い込もうとしてさ。

 たぶんこれはこの世界に来たせいじゃなくて、元々の八雲の性格なんだと思う。以前から積極的に、手伝いをしてくれようとしていたし。だけど姉としては、ちょっと複雑……


「とにかくそう言うわけだから。少しくらい私にも手伝わさせてね」


 そう言うと、八雲は困った顔で頷いてくれた。

 けど、こうまで言ってようやく「うん」と言わせたのに。次の日、私の願いは叶わなかった……

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