ラストシーン

 ああ、苦しいのも気持ち悪いのも通り越してしまったみたいだ。

 頭の奥がぼんやりする。

 そろそろ駄目かもしれない。


 今朝の朝ごはんは美味しかったな。

 仲直りの印に、朝からきみが頑張って焼いてくれた目玉焼き。

 絶妙な焼き加減ですごく美味しかった。

 もう一度食べたいけど、きみはいつもは絶望的に料理が下手だから、あの今朝の奇跡の産物はもう一生食べられないかもしれないな。

 もっと味わって食べておけばよかった。

 ごめんごめん、悪口じゃないよ。

 悪く取らないで。


 さっきの車、ぶつかったのがきみじゃなくて本当に良かった。

 痛かったからね、きみも気をつけたほうがいい。

 ああ泣かないで。

 心配させてごめんね。

 大丈夫だから、そんなに泣かないでおくれよ。

 ぼくはきみと出会えて本当に良かったと思っているんだ。

 きみと出会って、一緒に暮らして、沢山笑って沢山喧嘩したね。

 昨日のうちに仲直りできて本当に良かった。

 喧嘩の理由なんてもう忘れてしまったよ。

 きみの手はいつも暖かいね。

 ぼくの大好きな感触だ。

 きみの声、ぼくの大好きな声だ。

 でもごめん、さっきからちょっと、なんて言ってるのかよく分からない。

 頭の奥からぼんやりしてきて仕方ないんだ。

 どんどん白くなっていく。


 でも大丈夫だよ、ぼくはちゃんときみのことが大好きだから、心配しないで。

 ごめん嘘だ。

 違うよ。

 ぼくがきみのこと心配だ。

 ごめんね悲しい思いをさせてしまって。

 辛い思いをさせてしまって。

 せっかく昨日仲直りできたばかりなのに。

 きみは一人で大丈夫だろうか、きっとこれから無理をさせるんだろう。

 助けてあげられなくてごめん。

 ごめんねでも大丈夫だから。

 大丈夫大丈夫。

 だから泣かないで。

 大好きだよ。


 ごめんねそろそろ、きみの肌の感触もよく分からない。

 きみの声も聞こえない。

 苦しさもなくなってきた。

 ぼくは今どんなかおをしているかな。

 きみのなみだをふいてあげたいんだけど、ちょっとからだのうごかしかたがわからないんだ

 すごくめをとじたい


 大丈夫だよ、疲れたから、ちょっと眠いだけなんだ。

 寝て休んで、起きたら、きっとまたきみがあの目玉焼きを焼いていてくれるような気がしているんだ。

 だからおやすみ。

 目を開けるまで、もうちょっとだけ待っててね。

 だいすきだ。






『ラストシーン』

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