薄紙をはぐように

やっと咳き込む回数が減り

鼻詰が良くなってきた

熱が下がってきたおかげで食欲も出て

今日は桃の缶詰を食べた

ああ、子供の頃も治りかけの時に食べたなぁ


無性に葛切りが食べたくなる

あの鍋に入れた葛切り

ツルツルもちっとした食感が恋しい

いつも常備してある乾燥葛切りが

よりによって切れていてガックリ


でも食べたいものが出てきたのは

治ってきている証拠

起き上がった時のフラフラも

少なくなってきた

まだ気力は戻りきれずにいるけれど


やっと少しずつ周りに

気が向けられるようになってきた

いちばん酷い時は

自分の苦しさと戦うので精一杯で

それ以外の世界は塗りつぶされていたから


それでもこれはサガだなと苦笑したのは

熱にうなされながら、咳き込みながら

『言葉』を無意識に探していること

いやでもこれは

これぐらいで済んでいたからだろうけれど


病はその度に

気づかなかったわたし自身を露呈させる

まだそんなものがあったのかという

虚栄や甘さを晒されてみてみれば

我が身のなんともとした姿


薄紙をはぐように

こうして回復しようとする身体いのちの力

まだ、生きよ、と

その為の何度目かわからない鍛錬を

わたしは受けているような気さえする


あまりの学習能力の無さと

出来の悪さに

呆れられているかもしれないが

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