ひとりぼっちの冒険者の見てたもの
寺池良春
ひとりぼっちの冒険者の見てたもの
一人でいると声をかけてくる人がいる。
下心丸出しの男の冒険者だったり、私の冒険者としての話を聞きたいって言う駆け出しの冒険者だったり。
でも、私は話が好きじゃない。仲良くなっても冒険者。いつ命を落とすか分からない。だから話さない。話して仲良くなればいずれの別れが辛いから。
そんな私だからその後は誰も話しかけてこない。
でも、それで良い。私は一人が良い。
でも、その人だけはいつも私に話しかけてくる。
その人は、この街にいる兵士。
街の中を見回る下級の兵士だ。
依頼のために街の外に行こうと街の入り口へ歩いて行けば、「頑張ってくださいね」と声をかけ、帰ってくれば「お帰りなさい」と声をかけてくる。
その人は行き会った冒険者にそれをいつも言っている。
だから出会えば私にも言ってくる。
休みの日に会えば普通に挨拶をしてくる。
街で出会う人達に率先して挨拶する姿を見た事がある。
時々街の人から気軽に呼び止められる姿を見る事もある。
転んで泣きそうな子供をあやし、手当をしてるのを見た事がある。
足腰の悪くなった老人を背負って目的地に連れて行くのを見た事がある。
困ってそうな人に率先して話しかけるのも見た事がある。
冒険者同士の喧嘩の仲裁に入って殴られるのを見た事がある。
ただ、その人が兵士の格好以外で外を歩いているのを見た事がない。激怒するのも、相手を痛めつけるのを見た事もない。
彼はいつも街に、見えるところにいた。
でもその日、その人は街にいなかった。
無言で、やる気なくただ街を回る兵士がいるだけ。
彼の姿はどこにもなかった。
その日、薄暗くなった時、何を思ったのか私はふと兵舎の方へと足を運んだ。
そうして辿り着いたそこで、兵士の服を着ていない彼の姿と、大きな荷物が目に映った。
少し項垂れて寂しそうにする彼はその荷物を背負い歩き出す。
私はそれを物陰から見ているだけだった。
別に声をかける必要もないから。
そうしてその日から街で彼の姿を見る事は無くなった。
そんな彼のいなくなった街はただ彼がいないだけでいつも通りに動いている。
ただ、唯一変わったのは街が徐々に暗くなっていった事。
ため息の絶えない街になった事。
夕暮れ時のような雰囲気に包まれていく街。
彼がどこに行ったのか、誰も知らない。
でも、私は一人が好きだから別に知らなくたって良い。別に……。
そう私は一人でいいから。
私はいつも通り賃金を稼ぐために掲示板へと向かった。そこで小さな幼い字で書かれた依頼を見つけた。
誰が書いたのか分からないが、そこには誰もやらないだろうという程の格安の報酬金額が提示されていた。
そして、こう書かれていた。
『やさしいへいしさんをさがして』と。
ひとりぼっちの冒険者の見てたもの 寺池良春 @yoshiharu-t
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます