第19話


 「終わってから言うのもなんだけど」

 「なに?」


 腕の関節をきめられ無理矢理観させられた映画が終わり、ちょっと遅めの昼食をとるために近場のファミレスに入った。


 お互いにメニューから料理とドリンクバーを頼み、それぞれのコップに飲み物を入れて座り合う。俺はノンシュガーの黒色炭酸で、綾瀬はアイスティー。


 料理が来るまでにはそれなりの時間はかかるであろうことから、映画を見終わった後の感想でも話そうということになった。


 「アニメとか漫画の実写化って大っ嫌いなんだよ」

 「ほんとになんで今それ言ったの??」


 いや、改めて見てみたらやっぱり違和感があるのに加えてこれじゃない感がすごいあるのだ。


 ハッキリ言って、こいつら何してくれとんねん。


 「確かにCGとかその他もろもろは凄かったが、こう穢された気がする」

 「どんだけ嫌いなの……」


 この思いは俺だけではないと信じたい。


 「んで、綾瀬はどうだった?」

 「評判通りだったかな。可もなく不可もなくみたいな」

 「玉虫色の答えだな」

 「昔のアニメがちらつくから驚きとかはなかったから仕方ないのよ」


 確かに子供の頃に見たやつの記憶は案外残ってるものだからシーンも知ってるしストーリー展開も知ってるのよな。


 ネタバレを受けたわけではないけど内容を覚えてるみたいな。


 「そこら辺の女ならあの俳優が格好よかっただの、演技がどうのとか言うんじゃねぇの?」

 「偏見……ってほどでもないけど、そういうのはある一定の人たちだけよ。私はしない」


 そんな話をしていたら店員さんが料理を持ってきた。綾瀬の前にカルボナーラ、俺の前にはドリアが置かれ二人で手を合わせる。前見たテレビでドリアをフォークで食べてる人がいたけど、あれ間からぜってーご飯こぼれるよなぁ。なので、俺はスプーン派です。


 流石に持ってきてもらったドリアをすぐ食べると舌が火傷するのは明白なので少々時間を置いてから。


 「食べないの?」

 「猫舌なんだよ」


 ていうか、出来たてドリアをすぐ食えるかっつーの。味が感じられなくなっちゃうわ。


 「ふふ、可愛いところあるじゃない」

 「身体的特徴を可愛いとか言うな」


 て、照れちゃうでしょ。


 いや、俺はそんなキャラじゃない。


 「身体的特徴といえば」

 「自分の容姿を褒めるのか?お前が可愛いのは議論の余地なしで当然だろ」


 どうせ自分の美少女っぷりの自慢が来ると思って先を制す。人様の自慢話なんて聞く時間は無駄だ。


 「……///」

 「どうした?」

 「な、なんでもない!」


 何故かそっぽを向いてフォークで巻きつけたカルボナーラを口に含んでいる。それのせいか少しだけ逸れたフォークは綾瀬の唇の端を当たりつつ口内へと運ばれる。


 やれやれ、何してんだか。


 仕方なしに俺はティッシュを手に取る。


 「ほら、こっち向け」

 「いや、だいじょ―――にゃっ!」


 相変わらずそっぽを向いたままだったので、顎を左手で掴み無理矢理俺の方を向かせてソースがついた顔を拭ってやる。


 「よし、とれた……ん、顔が赤いけど大丈夫か?」

 「こ、この無自覚野郎…!大丈夫よ、ええ大丈夫ですとも!!」


 何かよく分からんが勢いよくカルボナーラを食べ始めてしまう。情緒不安定だなぁ。


 人の世話だけではなく俺も自分の料理を食べなければ。スプーンで一口分のドリアを掬って口に運ぶ。うん、美味い。


 「話を変えるけど」

 「映画の感想はあれで終わりか」

 「二人してそこまで印象的なのが出てこないのだから仕方ないでしょう」


 ここで選んだのお前だろとか言っちゃダメかね?煽っちゃう?やめとくか、やったらボコボコにされそうだし。


 「身体的特徴の話しよ。なんで前髪をそんなに伸ばして伊達眼鏡をかけてるの?」

 「綾瀬なら分かるだろ」


 どうしようもないほど目つきが悪いからだよ。言わせんな、恥ずかしい。


 「他人なんてどうでもいい。だから、わざわざ絡まれる原因を自分から晒すなんて阿呆がやることだ」

 「確かに子供泣いちゃいそうだしね」


 おい、ぶち殺すぞ。


 誰が目が合っただけで防犯ブザー鳴らされる歩く警報器だ。ここ最近の子供の防犯意識が高すぎて僕はびっくりするレベルだぞ。


 「他人ね……ねぇ、どこまでが他人なの?」

 「それを言う必要があるのか?」

 「会話のキャッチボール下手くそか?」

 「ごめんなさい…」


 なんで怒られたの?おかしくない?


 「猫被りに教える理由が無いんだが」

 「別にいいじゃない、減るもんでもないし」

 「単純だよ」


 俺にとって境界線はきっちり決まっている。そこに数ミリでも入ったその時から俺にとってそいつは他人ではなくなる。


 「俺の中で人間の区別は二種類だけ」

 「それは?」

 「だけ」


 大事なものほど明確にしとかなければいけない。それが、俺が学んで得た一つの解である。


 「難しかったか?」


 そこまで複雑なことは言ってるつもりはない。俺にとって大事にすべき人は全員身内ってことなだけなのだから。


 「いえ、単純明快だけど身内って認められなければいつまで経っても他人ってことが分かったわ」

 「それで合ってるよ」

 「ところで、その境界線はどんな条件なの?」


 そんなことを聞いてどうするつもりだ。


 「べ、別に身内になりたいとかそういうんじゃないから!ただ、ここまで聞いたら気になっただけだから!」

 「いや、そんなに否定しなくてもいいんただが」


 逆に怪しくなるからね、そーいうの。


 「言わねーよ」

 「なんでよ!」

 「逆ギレされたんですけど」


 あと、ここ店内だからボリューム控えてね。他のお客さんに迷惑だから。


 「関係がないんだよ」


 偶然、絡まれてるのを助けてしまっただけだの他人あやせ。俺にとってそれ以上でもそれ以下でもないのだから、赤裸々に話す理由がどこにもない。


 ただ、少しだけ今日のことがよぎる。


 それを振り払うように残りのドリアを口に入れ咀嚼し飲み込む。これでこの話は終わりだと示す。


 伝票を掴み荷物を持って立ち上がる。


 「映画は楽しくなかったが、綾瀬。お前との会話はまあまあ楽しめたよ。また来週な」

 「!?……ええ、また来週学校で」


 さあ、今日の予定を消化しに行きましょーか。










 





 「あくまで個人の感想だが、俺も実写化好きじゃねぇな」

 「早瀬は錬金術師好きだったもんな」

 「こう言っていいものか悩むが、制作陣をどつきまわしたくなったな」

 「ネタ切れなんだろ」

 「はぁ、今度は何が犠牲になるのか……」

 「ギアスとかなったら暴動を起こしてやる」

 「過激派かよ」

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