6



「あのさ」

「なあに~」

「こんいんとどけってやつをさ、書いたらずっといっしょなんだってさ」

「いっしょ?」

「おれ、アッちゃんのこと好きだから、書いて」

「えっ……」

「だから、けっこんするの!」



小学校から帰ってくるときに、家の前でユウちゃんに突然声をかけられた。当時は男女別々のグループで遊ぶことが多かったため、会ってもあいさつ程度しか会話をしなかった。そんんな幼馴染を気になっていなかったわけではないが、突然話しかけられて驚いたことを少しだけ思い出した。



「母さんから教えてもらったんだ」

「そ…そうなんだ」

「だから、書いて!」

「えっ?!」

「書いてよ!」



ユウちゃんは泣きながら紙を握りしめ、訴えてきた。私はどうしたらいいかわからず、泣きだしてしまった。その様子に気づいた母が家から出てきて、「どうしたの~?」と慌てふためく。



「なんでぼっ…ないっ」

「わああんっ!」

「あらあら喧嘩でもしちゃったの?」

「ぢでない…」

「ううっううっ」

「あらあら~」



母はその様子を見て、喧嘩をしていたと思ったらしい。間に入って私たちが泣き止むまで一緒にいてくれた。



「ぐすっ…」

「ぐすっ…」

「落ち着いた?」

「……うん」

「……うん」

「とりあえず二人ともごめんなさいしようか」

「ごめん…」

「ごめんね…」

「はいっ仲直りね!」



と、両手を叩き、「これで喧嘩はおしまい!」と“めでたいめでたし”した母は「あらいけない」と、家でやり残していたことを想いだし家に戻っていった。



「……あのさ」

「うん……」

「これ、書いて」



まだ言うのかよ、その時はそう思った。けど



「俺、アッちゃんとけっこんできなきゃ一人になっちゃう」

「え?なんで?お友達は?」

「俺……女の子と話せないから」

「そう……かあ……」



ユウちゃんが、寂しそうに下を向いた。



「さみしく…なっちゃうね」

「うん……」

「ってことは、私も男子と話せないから、私もユウちゃんとけっこんしないと一人になっちゃうの?」

「たぶん……」

「それはだめだね……」



結婚の概念こそ“幸せなもの”のはず。夢を持ち、美しいドレスを身にまとうなどのあこがれがあるはず。なのに、この頃にはすでに「おひとり様」を危惧していた柔らかい会話をしていたのかと、会話を思い出す度に恥ずかしくて顔を手で覆いたくなった。



「だから、書いてほしい」

「わかった」

「いいの?!」

「うん」

「やったー!」



ユウちゃんは両手を挙げて喜んだ。そして



「俺、アッちゃんのことさみしくさせないから」

「うん!」

「あ、このことはほかの男子に内緒だよ!」

「うん!あ、女子にも!」




そんな約束を、していた。







なのに



どうして変わってしまったの?






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る