5



このチャペルで、私は……。





「女の子ってね」

「うん」

「昔から結婚というものにあこがれているんだって」

「ウエディングドレス?」

「そうだと思う。お姫様になれるっていうあこがれがあるんだって」

「……そのフレーズどこかで聞いたような」

「映画館のCM」



チャペルでユウちゃんと話す。それは他愛のない、重い話。



「それで、いざここに立とうとしたときに、思ったんだよね」

「何を?」



ユウちゃんは不思議そうに見る。






私を取り巻いた事件が明るみになって、すべてを知ることとなった。知りたくもないことを知ってしまった。


それを、私は胸の中にしまい込んでここに立っていた。

私が成りたいもの。それは






「私、女の子じゃないなって、そう思った」

「え……」

「ユウちゃん」



私はチャペルの壇上から、ユウちゃんの視線を逃がさないように強く見つめた。



「どうして、本当のことを言ってくれないの?」

「本当のことって…?」

「木下さんと、まだつながっているよね?」



私は視線を外し、海を見つめた。壇上で立つ神父の背後に広がる海は、ガラス張りで綺麗な背景を描く。雲一つない海の景観は、壮大という言葉一つでは表せないほどうつくしくきらめいている。


本当は、このことを知らなければ、こんなことが本当じゃなければ、私はここでユウちゃんと結婚式を挙げたいと思っていただろう。



「……」



ユウちゃんは、わたしの隣に立った。



「……約束」

「約束?」

「うん」



ユウちゃんは、海を見つめて言った。



「アッちゃんとの約束。小学校の頃の」

「……」

「本当は、思い出したんじゃない?」




そう。思い出したんだ。本当は。



ユウちゃんと付き合いだしたころ、職場の制服の収納スペースを作ろうとクローゼットを開けて整理をしていた時に、たまたま奥に潜んでいた古びたお菓子の入っていた空箱を見つけてしまった。その中を見ると、そこには小学校の頃に大切にしていた宝物がぎっしりと詰まっていた。友人と交換した交換ノートや、その時に流行っていたに追い付きペンなどがぎっしり。



そして、その中に一通の手紙が入っていた。中には一枚の紙が入っていた。そこには





「俺、ずっと約束忘れなかったんだよ」

「……」

「やっと…叶えられるのに…」

「……」

「“こんいんとどけ”。書いてくれたじゃん」



その手紙は、当時小学校の頃にユウちゃんと書いた手書きの“こんいんとどけ”だった。






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