6
病院を後にして、電車に乗り、駅から家に帰る途中に俺のスマートフォンが鳴る。
さっきまでの余韻に浸っていた。着信は、アッちゃんだと思った。
確認せずに出た。
「はい」
「……もしもし」
「……」
無意識に電話を切ってしまった。息が詰まりそうな感覚。すぐさまスマートフォンのロックを解除し、アプリのメッセージで「要件があるならメッセージで送ってくれ」と送信した。
すぐに、既読が付いた。
ソファに座り、メモ帳をじっと見つめた。
何となく、まとめたものを見つめたら、何かが見えるんじゃないかと思ったから。
帰宅してすぐにシャワーを浴びて、ノースリーブのシャツと短パンに着替える。これがまた動きやすいのだ。この恰好で外に出ることに抵抗がない私だったが、弟に「頼むからやめてくれ」と言われている。
佐藤由紀恵
三十五歳、独身
職業:営業事務
住まい:マンション、弟と二人暮らし
冷蔵庫から二本目のビールを取りだし、ソファに座る。“プシャ”と粋な音を立たせて一人ビールを堪能する。
そして、メモを見てじっと考える。
「やっぱり引っかかるんだよなぁ」
いくら見つめても、思いついたことを広告の裏に書き殴ってみたが、やはり引っかかる。その疑問はたった一つ。
この事件、紅谷さんは一番“かかわっていないはず”。
当事者でもないのに、どうしてこうなってしまうのかと、疑問ばかりが浮かぶ。
「うーん……」
“ガチャ”
玄関が開いた。珍しく弟が私よりも遅く帰ってきた。
と思ったら、奥から“バタン”という鈍い音がした。何事かと慌てて駆けつけると、泥酔した弟が息絶えて玄関に寝っ転がっていた。
「……おい、起きろ」
「うんにゃあああ……お姉たまでございますかあああ」
「そこで寝てたら風邪ひくぞ」
「うん……にゃあ、ははっ」
今日は結構飲んだのかなと、私の肩に腕をかけて弟の身体をおこした。
「立てる?」
「う……ううっ」
「はっ?!吐くな!!」
「は……吐かないよおう」
「え……なんじゃそら」
「っうっ……悲し……」
「あー……はいはい」
千鳥足の弟を担ぎながら、弟の部屋まで運ぶ。部屋にたどり着いたら、そのままベッドに弟を放り込んだ。弟は二・三度ベッドで体を弾ませ、「うにゃうにゃ」と、目を瞑りながら何かを手探りで探していた。多分枕を与えれば大丈夫だと思い、頭上にあった枕を思いっきり振りかぶり、顔面に投げつけた。
「ごふっ……っうっうっ」
顔に収まった枕を抱き、枕に顔をうずめて泣く弟。
「(ストレスかな)」
「ちがうよ!」
エスパーか。なぜ姉の心が読める。
「はい、おやすみ」
「彼氏がいたなんて聞いて…ないよう…」
知らんがな。こっちは忙しいんだよ。
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