三、アツ子の逆

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「それでは、これにて新人研修を終了とさせて頂きます。長い日程の中、本当にお疲れ様でした。わからない事や質問等ありましたら、気兼ねなく声をかけてくださいね」

 

入社三年目。私は新人研修のオリエンテーションを任された。初めてのことで自信はなかったが、木下主任や山之内部長のフォローのおかげで何とか乗り切ることができた。

 


「お疲れさん」

 


山之内部長が、声をかけてくださる。



「いえ、ここまでやれたのも部長のおかげです。本当にありがとうございました」

「そんなことないさ。紅谷さんの手際の良さは人事部でも評判だ。俺はただのサポート役」

「そんなことないですよ、本当に助かりました。ありがとうございました」



一から作りあげる資料に困惑している時、過去の資料のデータを拾い上げてくれてた部長、そして



「お疲れー!よく頑張った!」

 


私の両肩を労うように、優しく両手で叩くのは、特に手厚いフォローをしてくださった木下主任だった。

 


「主任!」

「後ろで見てたけど、本当にできていたわ。来年もよろしく!」

「え・・・来年も」

「その時も手伝ってあげるわよ。ただし」

「おごりですよね?仕方がないなあ」

「まーた生意気な口を」

 


肩に乗せてくれていた両手が私の首筋をこちょこちょとくすぐってくる。「やめてください」「やーだよ」「相変わらず仲良いな」と、とても楽しく充実した日々を過ごしていた。





 



事件が起こったのは、新人研修のために休日出勤をしていた分を、振替で休んでいた日のことだった。


 


「紅谷。休日のところ申し訳ないが、ちょっと会社に来てくれ」

 


と、休日に連絡が入った。山之内部長に急きょ呼ばれ、緊急事態かと慌てて会社に向かった。

 

会社に着き、人事部に向かうと、オフィスの横にある応接室のドアの前で、山之内部長が「こっちこっち」と手招きをした。表情は硬い。

 

そして、応接室をノックし、中に入る。

 

そこには、一緒に応接室に入った山之内部長と、木下主任、そして、社長秘書の坂崎さんと、監査員の人たち二名。

 

一体、何が起きたのだろう。

 


「紅谷君、休日に突然呼び出してしまい申し訳ない」

「いえ、問題ありません。それよりも、ご用件というのは」

 


坂崎さんは、深刻な様子で話し始めた。


「さて、紅谷君は今日、家で休日を過ごしていたということで間違いないんだね?」

「?…ええ、そうですが」

「特に外出することもなかったと」

「ええ。それと何か関係が」

「唐突に聞くが、君の家にはFAX機器が置いてあるか?」

「FAXはないですね」

「そうか…」

 


山之内部長と、木下主任がほっとした様子を見せた。

 


「それならもう大丈夫だ、帰宅してかまわない」

「え?」

「もう要件は済んだ、下がっていい」

「し…しかし」

「これ以上、話すことは“ない”と言っているんだ。下がりなさい」

「は…はい。失礼いたします」

 


私は応接室から山之内部長と木下主任を残し、退出した。




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