二、アツ子の再
1
「私、仕事を探すよ」
実家に戻ってきて一年が経とうとしていたころ。このままじゃいけないと、前に進もうと思い、就職活動をすることにした。
退職したときに後に気づいたのが失業保険の手当を申請しそびれていたことだった。もらえるものはもらっておきたかったと思ったが、何度もハローワークに通うほど、精神的にゆとりがあったかというと、当時はなかったと思う。
幸い、半年に一回支給されていたボーナスを貯蓄していたことや、趣味などでお金を食いつぶすこともなかったため、実家に戻って約一年間は貯蓄生活でしのいできた。引きこもり生活をしていた時も、生活費のみで特にソーシャルゲームに課金をしていたわけではなかったことから、特別お金を使うこともしなかった。
まだ、貯蓄にゆとりはあるけれど、このままじゃいけない気がした。実家でお世話になっている手前、父と母に少しでも恩返しがしたかった。
「そう、頑張りなさいよ!」
と、母が背中を押してくれた。
私が住んでいる地域の管轄となるハローワークは、最寄りの駅から電車で三駅乗った場所にある。最寄の駅から歩いてすぐの場所にあるため、就職活動には便利な立地だった。
ハローワークで求人票を探すためには個人情報を登録しておく必要があり、担当者に教えてもらいながら、個人情報記入用紙に氏名から始まり記入をする。
「職歴……かあ。」
指を折って西暦・和暦をたどりながら記入した。そこには勤続年数を書く欄があり「五年二か月」と記載した。
あの会社で、私こんなに働いていたんだ。
自分で数えていた年数を若干受け入れられない感覚に陥る。もう少し短い期間で就業していたと思っていた。五年も経っていたんだ。
そうして、個人票を作成してもらう。担当者の人が、「このまま求人をご紹介できますがどうしますか?」と言ってくれたので、お言葉に甘えてお勧めの求人を検索してもらうことにした。
「前職と同じ職種にされますか?」
「はい。その方が、転職で有利になりそうかな…と」
「そうですね。経験者が優遇されることが多いので有利になりますね。あと、転職してからも経験は活きますからね。お勧めです」
「ありがとうございます」
「そうですね…こちらなんかどうでしょう」
と、担当者がパソコンのクリックを手早く押し、近くにあったプリンターで印刷をかけた求人票を取り、私の前に出してくれた。
紹介してもらった求人は二つ。どちらも実家から通勤できそうで、前職と同じ業務内容だった。
「いいですね。両方を応募することは可能ですか?」
「もちろんです。早速電話で問い合わせてみましょう」
担当者は二つの求人に電話をかけてくれた。どうやら掲示してある求人票でも、内定者が見つかれば求人を募集していない場所もあるようで、応募する前に求人が有効かどうかを求人を募集している事業元に問い合わせる必要があるのだという。
そして、担当者が電話を切り、もう一つの場所に問い合わせてくれた。会話を聞いているあたり、二つともまだ募集をしているようだ。電話を切り、「二つともオッケーです」と言ってくれたので、とりあえず駅の近くにある書店で履歴書を購入し、帰宅してからはスーツに着替えて証明写真を撮りに行った。
「よし」
自室に戻った私は、数年ぶりに書く履歴書を丁寧に書き始めた。職歴・学歴の年数を気を付けながら記入し、自己PRや志望動機はあらかじめ別の紙に下書きをしてから間違えないように写し書きをした。
何度も失敗したが、ようやく完成した二通の履歴書。窓から見える夕暮れ。気づけば夕方になっていた。
「あっ」
洗濯を取り込み忘れたと思い出し、慌てて階段を駆け下りると、洗濯物を取り込んでいる母がいた。
「ごめん!洗濯物取り込み忘れてた」
「いいのいいの!部屋で履歴書を書いてたんでしょ?家のことはいいから、就職活動に専念しなさい」
「でも…」
「きにしないの」
そういうと、母は取り込んだ洗濯物を家に入れ始めた。
「今は集中して頑張りなさい。で、働き先が見つかったらお祝いね」
「…ありがとう」
こうして家族に支えられているありがたみ。働いて自立して、少しでも恩返しがしたいと再度認識することができた。
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