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「ちょっとまってなんであんな飲んでるのに平然と歩いているのかな?」

「私、ザルらしいの」

「うっ……へえ」

 


すべてを話しきって、心なしかすっきりした感覚に浸っていた。優紀君は私の飲むペースに合わせようと頑張って飲んでくれていたが、私がザルだということを知らず、千鳥足になっていた。

 

私の肩を貸し、一緒に家までの帰路をたどる。

 

「それにしても、久々の再会でこんなにも楽しい時間を送れるとは思いませんでしたな」

 

優紀君は、酔うと少しだけ中世の高貴な伯爵のような口調になるらしい。

 

「そうだね、私も近状をここまで報告したのは優紀君が初めてかも」

「そうなのかね?律おばさんとか仁義おじさんには?」

「倒れたこととか、職場でのことは行ってないんだ」

「そうであったか…嬉しいのう」


 


優紀君は、口元に手を抑えた。

 


「もしかして吐きそう?」

「いや……違う」

 


手元を抑えている様子を見て体調不良かと思ったら、どうやらそうじゃない様子。だけど、とりあえず休憩をさせた方が良いかと思い道の途中に自動販売機を見つけ、近くの公園のベンチを借りて優紀君を座らせた。自動販売機で適当に水を日本購入し、キャップを開けて水を渡した。優紀君は私が手渡した水のペットボトルの蓋を開けて一気に飲む。

 


「伯爵、落ち着いてきた?」

「うん・・・ありがとう」

 


ふうと息を吐き、落ち着いた様子を見せてくれた。口調も元に戻りつつある。

 


「……のさ」

「うん?」

「約束って覚えてる?」

 


優紀君との約束。……すっかり忘れてた!またもお店で聞こうと意気込んでいたのに、別の話題で盛り上がっていたことですっかりきくタイミングを逃してしまっていた。

 


「あ……のさ」

「いや、忘れてると思う。俺ら小学校の頃にした約束だから」

「……ごめんね。思い出そうにも思い出せなくて」

「いや、いんだよ。俺も忘れてたから」

 


と、水をゆっくり飲みながら優紀君は私の顔をじっと見た。


 


「でも、約束忘れるなんてひどくない?……俺思い出したのに」

「ご……ごめん」

「悲しくて、近所迷惑になるほどここで大泣きしそう」

「…いや、冷静になろう」

「いろいろ辛いことあったし、メンタル崩壊しそうだし」

「…そうだね」

「だからさ、思い出すための“約束”しない?」

「思い出すための約束?」

「そ」



 

そういうと、優紀君は残りの水をすべて飲み切り、落ち着いた足取りで自動販売機の横にあるごみ箱に捨てに行き、ベンチに戻ってきた。

 


「紅谷が思い出してくれるまでの約束」

「というと?」

「まず、俺とこうやってご飯行ったりして遊んでくれること」

「う……うん。わかった」

「もう一つは、紅谷が元気になるまで俺が手伝わせてもらうこと」

「え…それは悪いよ」

「いいの。ハイ決まり」

「(強引だな)」

「で、もう一つは」

「まだあるの?」

「これで最後。最後のお願い」

「何?」

 

「昔みたいにアッちゃんって呼ばせて。で、俺のこともユウちゃんって呼んで」




私の中で、どっと来る“何か”が流れ込んできた。

こうして、少しずつだけど、私は進んでいく。



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