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「たぶん…だめだった」

 


面接をした二社に、手ごたえがなかった。面接日を同じ日に午前に一社、午後に一社と受けた。

 


「あらまあ。どうしてだめだったって思ったの?」

「うーん…」

 


それは、面接の内容が、はっきりと答えられなかったことにあった。




 

「…と、経歴等は申し分ありませんね。今日から働いてもらいたいぐらいです」

「ありがとうございます」

「ところで一つご経歴で質問をさせてください。退職をされてからは就業をされていなかったということなのでしょうか?差し支えなければ理由等もお聞かせいただければと思うのですが」

「あっ…」

 


二社とも、同じ質問をされた。午後に受けた一社は職歴の年数が間違って記載されているんじゃないかと“疑いました”と言われてしまった。

 


帰宅して思い返しても、面接の質問内容は正しいことがわかっていた。面接官は何も間違っていない。あの時私が「はい」と答えられたことが唯一の救いだったが、面接時に受けた、特に午後に面接をした先の“嘲笑われている”という感覚。

 

あれは、さすがに堪えた。

 

もちろん自分が悪い。就業をせず人と交流することを拒んだ結果だ。やっとのことで自分の気持ちに整理がつき就業しようと思い立ち、やっと就職活動をした。就業したい気持ちは強いし、何よりは働くことへの意欲は十分にある。

 

でも、それは評価されない。相手に伝えたくても“伝えたくない過去”。自分でも、よくわかっていた。

 


なぜなら、私の経験した職種が“人事部”だったから。







 あんた、ここどこの部署がわかってる?


 同じ会社の仲間をサポートする部署だよ


 なめた仕事するな


 無責任だ


 (早くやめろよ)






 

「アッちゃん?!」

 

気づくと私の目の前にユウちゃんがいた。

 

ぼーっとして座っている目の前に、見間違えじゃない、ユウちゃんがいた。

 

どうして。

 


「母さんが、律おばさんに渡してほしいものがあるって、仕事帰りに寄ったんだわ」

「…あっ」

「そしたらおばさんがちょうどアッちゃん帰ってきたからって家上がらせてもらって顔見に来たら、顔面蒼白で視線が合ってないっていうの?……なんかすごいことになってたぞ」

「私もびっくりしたわよ、救急車呼ぼうかとおもったじゃない」

「あっ……ごめん。昔のことを思い出して」

 


焦点を合わせた視線の先には、履歴書の職歴があった。

 


「思いつめすぎじゃない?」

「そうかも」

「……あっ!」

 


ユウちゃんが思い出したかのように鞄から何かを取り出した。それは複数のチケット。水族館の入園チケットだった。

 


「今日営業回りでさ、お得意先からもらったんだけど、気晴らしにどう?」

「水族館…」

「今、夏休みのお客さんとかいっぱいいるけど、イベント盛りだくさんだぞ」

「イベント…」

「そ。イルカショーの水浴びとか」

「あらまあ!私も行きたいわ!」

「律おばさんも行きます?」

「そうね!明日なんてどう?悦ちゃんと遊ぶ約束していたのよ」

「そうっすね!って母さん?」


「イルカ…行きたい」

 


もらったチケットには、イルカやアシカの写真が載っていた。水族館に行った記憶は小さい頃しかなく、大人になっていったことは一度もない。

 


「じゃあ、明日に決まりだな」

「うん…ありがとう」

 



ユウちゃんは笑って「いいよ」といった。






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