アシスタント

午後の講義も終わり、大学内で遥香と別れた後、おれは大学から最寄りの駅に向かい、下りの電車に乗る。

そして、揺られること20分。いつもの駅にたどり着き、アポロへと向かう。

程なくしてアポロにたどり着き、店内へ入るドアを開ける。店内はランチタイムも終わり、かなり落ち着いていた。


「あれ?どうしたの?」


カウンター越しに優さんが顔を出す。


「今日、暇になっちゃって、なんか手伝えることがあればなって思いまして」


「そうだったんだ。それなら、片付け手伝ってもらおうかな。あ、奥のね」


「あ、はい……分かりました」


そう返事をすると、おれは奥のスタッフルームにカバンを置きに向かう。手伝いって、そっちのつもりじゃなかったんだけど……

そう思いながら、スタッフルームに入ると案の定、皐月さんがいた。


「あれ、今日バイトの日だっけ?」


「いえ、暇だったんで来ました」


「いーなー。学生は。私と暇になりたいよ……」


「いや、ある意味、一番フリーだと思いますけど」


「そんなことない!!現に今だって……」


皐月さんはシクシクと泣きながら、スッと描いていたそれを渡される。

はぁ、全く。今日はそんなつもりじゃなかったのに。まぁバイト代出るからいいけど。


「それでどこをやればいいですか?」


椅子に座り、渡されたそれを受け取る。

しかし、渡されたそれは真っ白だった。


「ネタ出しからお願いします!!」


「無茶言わないでください」


無茶ぶりにもほどがあるだろ。っていうか、せめてストーリーくらいは考えてきてほしい。作者なんだから。


「何もできてないなら、家でやってきてくださいよ。なんで毎回、ここに来るんですか?


「いやー、家にいると、ついつい別のことしちゃうんだよね……あと、ここだとタダ飯食えるし……」


「そうですか……」


相変わらず、怠け癖があるようだな、この人は……

というか、今のは完全に後者が本音だろう。


今から1年ほど前。皐月さんはなんとプロの漫画家になった。

元々、絵を描くのが上手かったらしく、アポロでの出来事……というよりかは、おれと遥香の馴れ初めを喫茶店を舞台にして、アレンジ(大幅に)を加え、ダメ元で描いてみたところ、なんと雑誌に読み切りとして載ったのだ。また読み切りの結果が良かったからと、3ヶ月ほど前から月刊誌で連載が始まったのだが、こうして毎月、修羅場を迎えている。


そして、修羅場の際、当たり前かのように原稿を渡され、今やおれもトーンとスクリーンとベタ塗りくらいならできるようになってしまったのだ。

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