第7話 最悪の敵
ついに僕らは最後の敵にたどり着いた。相手は唐揚げの塊だった。肉を分裂させて香ばしい香りの肉塊を雨のように降らせてくる。
「おら、ホームランだよ」
あさいさんが力に任せて打ち返すと、肉の塊は見えない所まで飛んで行った。たえの魔法も絶好調で降り注ぐ肉どもをただの炭に変えた。敵の攻撃が落ち着いたころ僕は本体に駆け寄って、握った刀でとどめを刺す。肉の嵐は止まった。
「なんか拍子抜けだわ。こんなもんかって感じ」
あさいさんが大槌を地面に置いてつぶやく。
「それだけ私たちのレベルが上がったんじゃないの」
たえが満足そうに語った。どや顔をしている。たえは本当によくやってくれた。
「らあふの助けを借りずによくやったなあ僕たち」
冒険に終止符を打ち、満足して帰路につこうとおもった。らあふに出会えなかったのは少し心残りだったが。彼は男なんだろうか、女性なんだろうか。謎の存在でもあり少し心惹かれた。
僕が振り返ると鼻腔をかすかな香りがまさぐる。なんだろうか、妙に食欲をそそる匂いだった。僕たちは歩みを止めた。
ボスのいた場所には新たな肉がご丁寧にさらに並べられて盛られていた。これは何かの罠だろうか、それともご褒美なんだろうか。僕はふと鳥羽の言葉を思い出した。
「気をつけろ。何かの罠かもしれない」
あさいさんが飛びつきそうだったので僕は彼女の体を支えた。期待に合わせて胸が膨らんでいる。心臓の鼓動が手を伝わってきた。
「いいじゃない食べましょうよ」
あさいさんは、さっきの戦闘でよほど空腹なのか、僕を払いのけて足を運ぼうとした。その時、どこから現れたのか、らあふが目前に立ちはだかった。
「止まれ。食べてはいけない」
らあふは今までにない厳しい表情で僕らを見据えている。一瞬彼が敵対してると勘違いするぐらい殺気を帯びていた。毛髪の一筋一筋に気合が込められているのが分かった。ところがリーダーの僕が自分の意思とは別に肉を口にほおばりたくなってしまっていた。みんなはらあふにつめよって、その身体をどかそうとした。
「待て、これは人肉だ」
「人肉?!」
その言葉を聞き、僕たちは一瞬たじろいだ。だが、肉自体はその禍々しさを露ほど見せずに上等の食材として鎮座している。僕らはらあふが肉を独り占めするために嘘をついていると思った。
「うるさい。よこせ」
「仕方ない」
らあふは手に隠し持っていた何かを空中にまくと、それらは肉を切りきりに縛り上げた。見ると肉は黒い毛束で幾重にも締め付けられていた。
「魔に誘う異界の肉塊よ、禁忌を犯せし邪食の民よ、自らの躯へ駆けろ」
らあふが呪文を唱えると、目の前の肉は毛束に結ばれたまま消えた。
その後、僕らは急に我に返りえづきはじめた。らあふのおかげで口にしなかったのが不幸中の幸いだった。
「あれを食らわば、魔に変わりここに残る。ここはそういう場だ。」
「じゃあ鳥羽はどうして」
「施術を尽くして、なんとか魔物化を防いだ。もう少し遅かったら、ここの魔物になっていたはず」
「そんな……」
たえは青ざめて後ろに下がった。そしてカクンと膝をついてへたり込んだ。
「もう少し早く伝えたかった。ここは魔界への入り口。参加者をだまして利用する場」
「そんなおそろしい場所で、私たちは遊んでいたのね」
あさいさんが悔しそうに地面を殴る。
らあふと共に僕らは帰り道を歩いた。陽は何事もなかったかのように明るく照らしていた。
「不思議な術を使っていたが。何か習ったのか」
「ああ親父が術の使い手で、いろいろ学ばせてもらった」
「これからどうするんだ」
「この手の施設が全国津々浦々にあり、それらはみんな罠だ。それを一つ一つ潰していく」
「私たちは非力でなんにもできないけど。お身体を大切に」
「君たちも怪しい所には立ち寄らないように」
その日以来僕たちは、冒険には行かなくなった。らあふはその日以来見ていない。
モテない高校生だけど放課後に冒険者やってます 楽人べりー @amakobunshow328
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