第6話 天の恵み
ダメだ。次から次へと綿あめの雲が口に浸入する。そして糖分は脂肪に名を変えてウエスト周りを増加させる。たえの火球攻撃では焼け石に水だ。このままではモテからさらに遠いおデブちゃんになってしまう。俺は女性がいない青春の日々を回想した。寂しい走馬灯。
「せっかくのシックスパックが無駄になっちゃう」
あさいさんの悲鳴が聞こえる。俺らの武器はてんで役に立たず、悪戯に雲の侵略を許してしまうのだった。おまつりでさんざんおねだりした綿あめが特別サービス一年分としてやってきた感。今後一生綿あめなんて絶対に口にしない!
新聞だけが頼りだった。俺は頭を回転させた。新聞、なんだろうヒントが隠されているはずだ。4コマ漫画? テレビ欄? もっと中身をよく読んでおくべきだった。
手に冷たいものが当たる。雨が降って来た。空を見上げるといつの間にかねずみ色の雲が視野を覆いつくしていた。みるみるうちに溶け出す綿あめの雲。助かったぜ。
「恵みの雨だわ」たえが安心したようにつぶやく。俺たちは雲が撤退したのをいいことに木陰で休み、林を伝い歩きながらスタート地点に急いだ。
「天気予報も知っておけってことだわ。うかつだった」
あさいさんが悔しそうに言った。
「ただ次の敵がわからないから、対策の立てようもないんだ」
俺は頬杖をつきながら思いを口に出した。そう俺たちは行き当たりばったりで戦闘を続けている。だからダメージが大きいんだ。
「情報屋に訊いてみたら? 高いけど」
たえがアドバイスをする。
「あんまり金銭的余裕がないんだよね。だからなるべくなしにしたい」
俺は即答した。情報屋の存在はうすうす知っていたが、足元を見てふっかけてくると聞いていたのでなるべくなしで済ませたかった。バイト代は武器のレベルアップに当てたい。
「仲の良い友達とかいないの?」
「ああ、鳥羽がいたな。よし明日学校で訊いてみよう」
次の日、学校に行ってみると鳥羽は休みだった。噂によると凄いけがをしたらしい。俺はにわかに気になって彼の家を訪ねてみた。
玄関の呼び鈴を押すと鳥羽の母親が心配そうな顔をして扉を開けてくれた。彼の部屋に行くと鳥羽は寝込んでいた。怪我をしている様子はなかったので俺は少し安心した。
「よう。どうしたお前らしくないな」
「栄、俺、冒険降りるわ」
「えっ」
「いや、あそこまで最悪な敵が出るとは思わなかった」
「どんな奴だ」
「なりは普通だが・・・・・・。嫌だ思い出したくない」
というと彼は口をつぐんでえづきはじめた。俺はあわてて洗面器を持ってきてもらいセッティングした。鳥羽は嘔吐を続けた。
「忠告する。これ以上続けない方がいい」
鳥羽の表情は悔恨に満ちていた。
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