第4話 一筋縄じゃいかないぜ
栄とたえ、そしてマッチョな女戦士こと波戸あさい。三人ともフィールドで苦しんでいた。栄の剣が敵の身を削いでいくが決定打にならず、あさいの大槌を跳ね返す弾力性を持ち、たえの魔法をものともしない。
敵はこんにゃく。カロリーが低い分甘辛い砂糖醤油の衣に身を包んで、敵としての存在感を増している。油断していると甘ったるいそれでいて香ばしい汁をまとった塊が飛び込んでくる。
「あーもう。その分ジムに通わなきゃ」
あさいがいまいましそうに吐き捨てた。少しずつ脂肪の被膜に覆われるボディ。糖分は身体の中で脂身に変化する。
栄は滅茶苦茶に剣を振り回す。しかし宙に浮いたこんにゃくは、固定されていない分攻撃をいなして、反撃をかける。甘辛い汁を口元にめがけて飛ばす。
「見てられない。助太刀する」
声のする方向を見ると150センチぐらいの小柄な少女がいた。手にはなにかテグスのような繊維を携えていた。その先には白い塊。
こんにゃくに対して白い何かを投げつけると、あれだけ三人を悩ましていた魔物が消えた。ニ投、三投するたびに面白いように消えるこんにゃく。
二人は少女に駆け寄り彼女の武器を見た。
栄はというと、なぜか後ろの方でモジモジとしている。
「これは」
「そうテグスに通した乳歯。あたしの唯一の武器」
「そんなもので勝ってきたの」あさいが驚いた声で尋ねる。
「ご存知の通り、ここの魔物は食物、なら彼らが恐れるのは歯」
少女は落ち着いたよくとおる声で話す。夏の空気が一瞬冷気に吹きかけられた気がした。
「師は言われた。敵の性質に合わせて戦略的に戦え、と」
その言葉を残すと、彼女は森の闇へ駒を進める。
「な、名前を教えてくれなぬか」
大事な所で女性恐怖症が出た栄は言葉を変にしながらも勇気を出して話しかけた。
「比企志らあふ」
それだけ告げると森は彼女を覆い隠し、木々の影に吸い込まれて見えなくなった。
「そうか、肉弾戦ではダメなのか」
栄は膝をついて宙を仰ぐ。森に入る前の冒険者気分は消えていた。
「私も筋肉でラスボスを倒すつもりだったのに」
あさいは悔しそうに歯ぎしりをしていた。肩から首にかけて筋が浮かぶ。
「私の魔法も戦略を建てなきゃだわ」
たえが、フードを被り直して向きを変えた。三人とも一旦店に戻って、プランを練り直すつもりだった。
茶店の中でそれぞれの飲み物を口にしながら会話を進める。
たえはおしゃれにカモミールティ。
栄は太り気味なのでただのお茶。
あさいは濃い目のミルクを喉に流し込んでいる。
「あの子ラスボス倒せると思う?」
たえが、三人の中では一番経験が多いあさいにきいてみる。
「敵はサイズがでかいから乳歯では無理ね」
彼女は手を広げて、大体のサイズを示した。彼女の話によると大人一人分の肉の塊でカロリーも相当あるようだ。
「分身肉にやられて、肥満で動けなくなってゲームオーバー」
たえと栄は自分が太った姿を想像して青ざめる。
「やっぱり出たとこ勝負じゃだめみたいだ」
栄は頬に手を当てていつまでも考え込んでいた。
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