第3話 手強い雑魚 そして

 もう少し散策して敵を倒してから戻ろうと欲を出したのがまずかったか。

今俺たちは苦戦している。戦闘してから大分時間がたっているようなのにまだあいつらは倒れてくれない。


「赤く照らす炎よ、その情熱で敵を燃やし土に帰れ」

たえが詠唱し火球を放つ。熱い炎の塊が誘蛾灯を目指す甲虫のごとく的に体当たりするが、大したダメージは与えられない。

冬でもないのに何だろうこの強さ、ああだからモンスターなんだ。

 

「手ごわいなこのアイスバー」

そうなのだ敵はアイスバーなのだ。氷の塊のそいつは剣での攻撃をものともしない。たえの火球でさえも、自らの冷気で溶けた部分を修復してしまうのだった。


「早く倒さないと、こいつらカロリー凶悪よ」

「だからってどうすりゃいいんだ」

氷菓のカロリーはあまり気にしていなかった。砂糖水だと思って甘く見ていたのだが、チョコレートが練り込まれていてカロリー高め。


一体が俺の口の中に飛び込んできた。冷たくて甘い味にした先がとろけてさらに口元が緩む。パリパリとした食感も癖になりそう。アイスバーはまんまと口に入り込み、完食した俺は、さらに太った。


敵さんはまだ二体いる。集団で襲われたらどうなってしまうだろうか。

「私太るのだけは絶対に嫌だからね」

たえがこちらを睨んで吐き捨てる。だからといってどうしようもない。俺も精いっぱいやっているのだが、アイスバーの身体をただ削っているだけである。コンクリートをかんなで削るような苦行。俺は疲れを感じ始めていた。


「畜生、誰か助っ人でもいればなあ」

「リーダーは弱音吐かないで」

たえに突っ込まれて負い目を感じたがよく考えると相手も男なのだ。

なんで俺が全責任を負わなきゃならないんだと思った。


「苦戦してるようね」

背後から女性の声がした。野太くそこらの野良犬なら逃げ出してしまう位、勢いのある低い声だった。


 声の持ち主は俺たちを尻目に前に突き進んでいく。その体つきを見て思わず息を飲む。ウエストはくびれているが6パックがうっすらと浮かんでいる。そして腕も腿も俺より太かった。彼女は肩に乗せていた大槌でアイスバーを叩き潰した。

冒険者たちが踏み固めた地面はアイスバーがめり込むのを遮る。彼らの堅いボディに亀裂が生じ小さな塊となり力を失った。


「剣でも炎でも勝てない敵はこうするの」

彼女はどや顔をして、白い歯を見せる。うっすらと滑らかに光るルージュが色を添える。


「助けてくれてありがとうございます」

たえと俺は、お手本を示してくれた相手に深々と頭を下げた。


「こっから先はもっと手厳しい。そろそろ帰った方がよさそうね」

太陽は大分低い位置におりていて、影が背のたけを超えて伸びていた。


「まってくれ見ての通り二人だとこの先難しいんだ。頼むから仲間になってくれ。その筋肉いや、戦闘経験が必要なんだ」

「わかったわ。仲間になってあげる。いい事、筋トレは大事よ」


その筋肉お化けいや女性は名前を波戸あさいと言った。力強いパーティを得て気分は上々だった。



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