アイドルになった宇宙人

水田柚

アイドルになった宇宙人

 すべての命は平等、そんなものは嘘っぱちである。母が死んだとき、私のこの考えは確信に変わった。


 母は星立病院で看護婦をしていた。長らく共産主義を掲げていたこのぺトロ星では、働くことこそこの世界に存在する意味。少なくとも私も母も、その事を疑うことはなかった。


 その結果母は死んだ。過労死、毎日の激務を薬でごまかし自らの限界に気づくことが出来なかったのだ。


 母の葬儀には多くの人が訪れた。国のためによく働いた! 誇りに思え! そんな口だけの賛辞でも私の心は少し救われた。


 だがその二日後こんなニュースが流れてきた。

『ディア元環境大臣、老衰のため死亡』

 そのタイトルに続き、街頭インタビューで次々と悲しみを嘆く名も知れない人を見て、ふと思ってしまう。


「母と何が違うのだ?」


 確かに環境大臣は素晴らしい人だったのかもしれない。国のために尽くしたのかもしれない。だが、その後隠居しておめおめ生きてた人間と、死ぬ思いで働いて死んだ母。なぜ同じ『死』だというのに、こんなにも差があるのか!


 その日から私の中に、自分でもわからない何かが居座った。

 そんなある日、私は政府に呼び出された。なんでも地球と言う星におもむき、アイドルという文化を持ち帰ろうというのだ。断るのは簡単だったが、その後特に用事がなかったので、オーディションというものに参加することにした。


 私を含め七人の少女が椅子に並べられた。目の前にいるのは、今回の文化交流を担当する官僚とありもしない星を語る地球人だ。


 結果は散々だった、私を含め七人全員がだ。内容は簡単な質問だったが、その意図がわからない。趣味嗜好、恋愛経験。そんなものが仕事になんの関係があるのだ? 困惑する私たちを見て、地球人はまゆをしかめた。


 そんな中、最後の質問だけが私の心に引っ掛かる。『夢はあるか?』そんなものは無いはずなのに、私は自分の記憶を遡った。私以外の全員は『国に貢献すること』と答える。結論がでなかった私もそう答えようとした。だがその時、私の口が勝手に動いた。


「目立ちたい」


 その答えひとつで私はアイドルになった。


 地球に渡り、地球人のアバターを手にいれ、毎日の勉強がわりにレッスンをこなす。運動なんてほとんどしたこと無いのに、なぜかとても心地よかった。母もこんな気分だったのか? 二度と答えのわからない疑問を、何度も復唱する。


 そんなある日、私は高熱で倒れた。原因は毎日の過剰レッスン。地球人というものはよくわからない。一緒にい先輩アイドルはしかることもなく、むしろ私に休養を勧めた。


 その翌日、私は初めて与えられた役割を放棄した。熱が引いた私を先輩が連れ出したのだ。地球ではこれを息抜きと言うらしい。映画館、CDショップ玩具屋。その中でも私の目を引いたのは、小さなライブハウスだ。先輩の計らいでステージに立った時、私の心にある何かの正体が分かった。


 恐怖だ。私は母と同じように、誰にも愛されずに死ぬのが怖かったのだ。その事に気づいた時、私の心は憑き物がとれたように軽くなり、少しの喪失感がじんわり広がっていった。


 そしていよいよライブの日がやって来た。最後の曲を歌い終わったときには、私は私を止められなかった、


「私のこと愛してくれますか……!」


 その言葉に大歓声の返事が返ってきたとき、私は涙が止まらなかった。それは悲しみではなく、嬉しさとも少し違う。ただ、私を愛してくれる人がこんなにいることに感動したのだ。


 私は一人じゃない。その確信とともに私は初めて夢というものを持った。『みんなにとってかけがいのない人間になる』それが私の夢だ。

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アイドルになった宇宙人 水田柚 @mizuta-yuzu

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