気仙沼時代26 2014年11月10日(月)

 そうして、書いた私の詩歌(しいか)はとてつもない評価を得ることになる。


 これは現実ではないのだが、私は頭の中で紫綬褒章(しじゅほうしょう)とピュリッツァー賞とシャルルドゴール賞をトリプル受賞するのだ。28才という年齢も最年少ということで一気に世界中から脚光(きゃっこう)と喝采(かっさい)を浴びる。


 これは妄想(もうそう)なのだ。現実ではないと知った時、そりゃそうだよなぁと落ち込むが、そんな事も幻聴の中で起こるのだ。私は笠ノ宮からいろんな提案をされる。


 世界中の王侯貴族(おうこうきぞく)の間で、私と結婚したいという女性が数多(あまた)現れ始めるのだ。


 私には彼女がいるから、全てを断るのだ。


 Aishwarya Raiというインド出身の当時一番脚光を浴びてたセレブリティも居たし、有名無名(ゆうめいむめい)のモンロー女優20人とのハーレムを築かないかなどと、普段から妄想(もうそう)してたような誘惑(ゆうわく)が絶えず押し寄せる。


 宮崎あおいちゃんが私を好いているだとか、果ては仙台で風俗嬢(ふうぞくじょう)と遊んだ時に子供が生まれていて、その人を妾(めかけ)として彼女とどっちを取るかなんてことが噂(うわさ)されたりするのである。


 jed(ジェド)ショップという、私の名前を冠(かん)したアパレルショップがオープンし私のセンスに忠実(ちゅうじつ)な豪華(ごうか)なラインナップのセレクトショップが運営され始めたり、北極海(ほっきょくかい)を丸々与えられ、通行権(つうこうけん)やら漁業権(ぎょぎょうけん)なんかで8000億円もの莫大(ばくだい)な資産が転がり込んだりして来る。


 そんなこと起こっていないのだ。でも、一躍(いちやく)時の人になるような思いを幻聴の中で体験するのだ。


 それは私が思い描いてた洋服のアイデアや構想が世界で認められるべき希有(けう)な価値を有する素晴らしいものだと思いたかったからだろう。



 彼女も私のアイデアについて幻聴のなかでこう言ってくれた。「先進的過ぎて、誰もついてこれなかったの。」と嬉しそうに明るく大声で語りかけてくれ、私の心は随分(ずいぶん)と慰(なぐさ)められたものだった。



 しかしながら、良い事ばかりが舞い込むわけじゃなかった。


 笠ノ宮という男は彼女を娶(めと)ろうと企むばかりではなく、史上最凶(しじょうさいきょう)の悪魔(あくま)のような男だったんだ。

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