気仙沼時代27 2014年11月23日(日)
良い事ばかりじゃなかったというのは一言で説明できない。想像出来うる全ての最悪な事態に遭遇(そうぐう)する。
それはもう、幻聴が聞こえていたからか本当に起きていたことなのか、判然(はんぜん)がつかないし、時系列すらあやふやな出来事ばかりだ。
でも、ここが一番書きたいことでもあった。私の不幸の元凶(げんきょう)であり、忘れられない、忘れたい過去。
これを書くのには勇気がいる。そして書いてしまうことで水に流したいのだ。
私は彼女が囚(とら)われの身の姫のように感じられていた。
彼女に乱暴しようとする旦那がいて、私が書いた手紙を全部どうしたのかと彼女に詰問(きつもん)する。
彼女は「墓の中に埋めた。」と言ったので、私は夢遊病者(むゆうびょうしゃ)のように夜中に墓場に侵入(しんにゅう)し、まだ新しい墓の立ってない箱の中をきっとこの中にあると決め込んで力いっぱい引っ張ってみたりした。
免許証の更新の際(さい)、病気のことに言及すると警察はある書面に捺印(なついん)を要求してきたので左手の人指し指で判を押した。
免許証の再交付の際(さい)、私は本籍(ほんせき)は自由に選べるということを聞き、本籍同士(ほんせきどうし)を彼女と同じ場所に移して、挙げた紙婚式(かみこんしき)が私にとって免許証の再交付となった。
冬の寒い夜、仙台まで車でドライブして一人でラブホテルに泊まったのだが、まるで私は彼女と一緒に来てるかのように一人で振る舞った。
ジュースをわざわざ2本買ったり、乾杯って言いながら頭の中で彼女を描いて、二人だけの夜を共(とも)にしたりしてた。それはそれは温かい妄想(もうそう)だった。
客観的(きゃっかんてき)に見ると危ないところまで来てる感じだが、私の中では愛おしい儀式(ぎしき)だった。
泣きたくなるくらい、また彼女を好きになっていた。なんとかしたいと思っていた。
なのに、私は夜、聞いてしまう。
彼女が快楽の美声をあげる声を、声に出してはいけないと十分我慢させられながらも、享悦(きょうえつ)の底の果てで漏(も)れてしまった喘(あえ)ぎ声だった。
私は声でわかった。彼女がSEXをしていると。しかも家の近くでしていると。
相手が誰かはわからなかったが、私が気仙沼でサッカーを軸に築いた先輩や友人たちに犯され続けているように感じた。
有名になってしまった彼女はヤクザに売られてある事ない事させられてるように感じてた。もちろん、これも幻聴かもしれない。
けど、私はこの耳で聞いたんだ。頭の中に響くような声ではなかった。紛(まぎ)れも無い彼女の快感に打ち震(ふる)え、悶(もだ)えるようにあげられた声に、私は嫌な予感だけを残してなす術(すべ)が無かった。
無論、この頃、彼女は気仙沼に居ると信じ込んでいたし、行ってはいけないと言われてる夜の街で遊んでいたし、ヤクザだって私の所為(せい)で一度大きく動いたんだ。
無い話と片付けるわけにいかなかった。
でも現場を押さえたわけでも、彼女の姿を認(みと)めたわけでもなかった。
でも愛する人の声は、分かる自信があった。
そういったことが2度、3度あったんだ。でも彼女が私を愛しているのに変わりはなかった。
彼女は私のタバコを吸うことだけが許せなかったみたいで、注意を受けながら1時間に1本と決めて吸うようになる。それ以外は我慢するのだ。
そうして彼女から許しを得て、日頃(ひごろ)浴びせられるその他大勢からの罵声(ばせい)のために、私は一日一回、タバコとコーヒーを早朝の人通りが無い時にだけ買い物に行くようになった。
彼女は私に「今日は何買ったの?」と聞くものだから私は誰もいない道の上で買った物を空高くに見せるのだった。
幻聴があったから、現実の彼女が魔性(ましょう)の娼婦(しょうふ)と成り果てていても、そんなことが彼女に対する気持ちを萎(な)えさせるものになりはしなかった。
しかしながら、とんでもないことが起きる。
彼女の動機さえも皆目(かいもく)わからない。今になっても意味不明。
しかし、決定的な禍根(かこん)を残す事態となる。
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