気仙沼時代25 2014年11月05日(水)

 どんな幻聴だったかというと、それを詳(つまび)らかに説明するのは非常に困難(こんなん)だ。


 かいつまんで言うとこうなる。私の家の屋根裏(やねうら)に山本耀司さんとT7先生が居て、常に励(はげ)ましてくれるんだ。


 私がネットでああだこうだやりとりしてるのをちゃんと見ててくれて感想をくれたりする。


 頭の中で喋(しゃべ)ったりするんだ。喋(しゃべ)るというより、声をかけてもらえる感じだ。


 そして男の子と女の子が同時に家の屋根裏(やねうら)に隠(かく)れていた。


 食べ物は大丈夫なのかと心配して子供の手で取れそうなところにサプリメントを買って置いておいたりと、幻聴に伴(ともな)う行動が私にも現れるようになる。


 この大好きで大変尊敬してるカッコいいと思ってる二人に見守られながら、私はその他大勢に浴(あ)びせられる罵倒(ばとう)と闘(たたか)うのだ。


 そして、皇族の方までお出ましになる。本当はそんな宮家は無いのだが、笠ノ宮(かさのみや)という隠れ宮家に当たる天皇陛下の代理人(だいりにん)を務めるような方が突然校庭に現れて、付き人と彼女と共(とも)に、並んでる生徒を見た事も無いような化学兵器で射殺(しゃさつ)するのだった。


 これは脳内(のうない)に響(ひび)く音を解釈(かいしゃく)するとそういう絵になるという事で実際(じっさい)に目撃(もくげき)するわけじゃなし、実際(じっさい)に起こった事でもないのだが、このように、彼女や彼女の周りで人が死んで行く像(ぞう)と何度も出会(でくわ)し、彼女の意向で人が殺される絵まで脳内(のうない)で垣間(かいま)見る事になる。


 K-WAVEで出会ったこうたろうという男の子はやっぱり、彼女と行動を共(とも)にしていて、こうたろうも最新兵器で人を殺(あや)めてしまうのだ。


 全くわけがわからないだろうが、全て私を良しと思わない人や一大勢力と彼女や彼女の弟や周りの人が闘(たたか)って行くんだ。


 彼女は私と彼女が出会うまで戦争は終わらないと言ったし、たくさんの子供や人が亡くなって行くというのはそういうことなのだ。死んだ人を見たわけじゃない。


 でも私を理由として多くの人が死んで行く像(ぞう)を頭の中で何度も見るのだ。


 私はそんな戦々恐々(せんせんきょうきょう)とした中、彼女が初めて私の前に現れ、私と絶対結婚するんだって言う、初めて相思相愛(そうしそうあい)になれたことを複雑(ふくざつ)ながらにも、人生で最上の喜びと感じた。


 殺し合いが絶えなくても、一途(いちず)な彼女の想いに応(こた)えたいと望んだ。彼女のことは人が死んだって殺されたって、殺したって好きだったのだ。全面的に彼女を擁護(ようご)し、彼女が気仙沼で暴(あば)れ回(まわ)ってるのを気が気じゃない思いで見つめていた。


 そんな彼女への想いを私は携帯のメモ欄(らん)に認(したた)め始める。メモは文字制限があって、20の余白しかなかった。


 それを一つずつ埋めて行って20編に渡る愛の記を詩の形式で綴(つづ)っていた。


 私にはそれくらいしか出来ることが無かったのだ。



 もう一つしたことがある。それは彼女のポートレートを新緑(しんりょく)を浴(あ)びて眩(まぶ)しかった出会ったばかりの頃から抱いていた彼女のイメージを昔美術部で描きかけになってた絵に描いたのだ。


 白く塗りつぶして、緑色の絵の具で描いた。一生懸命描いた。でもヘタクソなアニメっぽいポートレートにしかならなかった。イメージしてるように、美しく写実的には描けなかった。


 ピンぼけした唯一(ゆいいつ)持ってる彼女を大学の屋上で撮った写真を見つめながらただ一生懸命には描いたんだ。


 私はこの間一月半ほどだが、全ての性欲を絶った。夢精を生まれて初めて経験した。


 しかし、それはカウントせずに、とにかく自らふしだらな行為に走るのは辞めてただ、純粋に彼女を想う時間だけを目一杯(めいっぱい)連ねて、詩作と絵画に向かったのである。



 そして、彼女や大学の頃の友人の名を書いて、私の人生で大切だった人のことを思い浮かべて彼ら彼女らよりも先に死にたいと、常に私の頭の中には死に関する事柄(ことがら)が迫(せま)って来ていた。


 生きていて申し訳ないという想いでいっぱいになってくるのだ。それには、幻聴で聞こえて来る私を誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)して来る声も糾弾(きゅうだん)する声も嘲笑(ちょうしょう)する声も影響してのことだが、ノートに大切な名前を書いて、お別れをしたいと望むのだった。



 そうして、Twitterを辞める間際、辞世の句も一句では足りず三対の句を書いた。


 そして物足りない出来映えだったがもう一句書いて全部で四句の辞世の句を書いた。


 内容は覚えていないが、自分が書いたとは到底思えないような深淵(しんえん)な美に到達(とうたつ)したかのような見事な出来栄(できば)えだったのだ。Twitterを辞める際に消してしまい、残ってはいないのだが、誰かしら読んでくれてはいないかと今でも思ってしまう。


 そうして思いも寄らない展開に、私の脳内は発展していくのだ。

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