気仙沼時代23 2014年10月20日(月)
私があれ?っと思ったのはK-WAVEでスケボーをしている時だった。
K-WAVEには避難(ひなん)した後(あと)、避難者同士(ひなんしゃどうし)で暮らすコミュニティが出来(でき)上(あ)がっていた。
仮設住宅(かせつじゅうたく)もできて、方々(ほうぼう)から色んな人が入居していたようだが、その中の子供たちの中に不思議な子供がいたんだ。
二人は暇(ひま)そうにしてて、私がスケボーをしていると、「ゆうたろう、こうたろう、二人合わせて残念たろう。」と言って私に親(した)しげに話かけてきた、その二人が黒いHONDAの車が坂を降りて行くのを指して、○○と、彼女の名前をあだ名で言ったことだった。
その後(ご)、こうたろうとはよく話すことになる。こうたろうの方でも私に懐(なつ)いているようだった。
ママは何の仕事してたんだ?と聞いたら、「たい焼き屋さん、ケーキ屋さん、化粧品屋さん。」と答えた。ママが帰って来るまで良い子にしてろよ。と言って、まさかこうたろうのお母さんは彼女じゃないだろうなぁと、思ったりしてた。こうたろうは4才だった。無い話じゃないと思っていたら偶然(ぐうぜん)だった。
その時もスケボー片手(かたて)にセイムスという、薬局屋の前の滑(すべ)りの良いアスファルトで私はスケボーしていたんだ。不意(ふい)に、水を買おうと思ってセイムスに入ると彼女とばったり再会したのだ。
私は雷に打たれたかのように驚(おどろ)いた。心はにわかに沸騰(ふっとう)してその緊張(きんちょう)に耐えられなかった。私が咄嗟(とっさ)に取った行動は水を買うや否(いな)や店を出てしまうというものだった。
しかし、彼女は私が水を取ってすぐにレジに並ぶと、彼女の方でも棚(たな)から何か求めると、私のすぐ後ろに並んで、私にくっつこうとしてくるのだ。ただならぬ熱意(ねつい)を感じた。
なのに私はすぐに店を出てしまったのだ。今考えても人生で最大の失敗だった。
なぜ、彼女の元を離(はな)れてしまったのか。この腕(うで)でぎゅっと抱(だ)き寄(よ)せられなかったのか。
なぜ、彼女が気仙沼に居るんだ。私がした変な通報は彼女に害を及ぼさなかったのか。
即座に聞くべきだった。もとより、元気にしているかだけが心配だったのだから。
そう考えると、彼女は私に、生きてる姿を見せに来て安心させてくれたのかもしれないのだった。
スケボーで一漕(ひとこ)ぎして、またセイムスに入るともう、そこに彼女の姿はなかった。
駐車場にも、お店の周りどこを調べても居なかった。なんてことをしたんだと思った。夢かと思った。
そして、彼女はこのあと、こんな私をどう捉(とら)えていくようになるのかもわからなかった。
でも、紛(まぎ)れも無い現実(げんじつ)だった。これが幻覚なら、何が現実(げんじつ)で何が非現実(ひげんじつ)かわからなくなる。
それぐらいリアルに彼女を感じたんだ。感じたというより、一瞬だけどそこに居て、一瞬だけど、お互いを意識(いしき)したやりとりがあったんだ。これは幻覚(げんかく)なんかじゃない。
紛(まぎ)れも無い過去なんだ。でもそれじゃ辻褄(つじつま)が合わなくなるような出来事(できごと)しか起こらなくなる。
今でも、この一件だけが、彼女について辻褄(つじつま)が合わない過去なんだ。
彼女が私を探して、私の元に来ただなんて、奇跡だった。渡し続けた手紙で彼女のハートを初めて掴(つか)んだ。幸運な誤算(ごさん)だった。
そして、ここから、私の幻聴は酷(ひど)くなっていく。
何しろ、私に聞こえてた幻聴は、主に彼女の声だったのだ。
彼女が力一杯、私を愛してると近づいて来る。そんな幻聴がこの後(あと)から酷(ひど)くなり、もちろん、彼女以外の人の声も混じって来るし、頭の中でも現実でも多くの人が死んだりしていくんだ。もう耐えられないってとこまで捻(ね)じ曲(まが)がっていく。
それはそれは大変な日々だった。
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