大学時代20 2014-03-04
自棄(やけ)になって、どうしたかと言うと、そうです。また風俗に行ったんです。
五反田の夜の街に吸い込まれて行きました。
自棄(やけ)になっていたんでお金の計算なんてしませんでした。
何軒も梯子して、やぶれかぶれ。お金がなくなるまで遊びました。
でも、今思うとそうやって、遊ぶくらいはまだ元気があって良かったんですかね。
そのまま何もしなくなる人だっているでしょう。
お腹が空いたらコンビニに行く以外は何もしてなくて、生活も荒れて、不潔でした。
パンツも履かずに直(じか)でジーパン履いて、なんでそんなことになったんでしょう。
わからないですが、この五反田で私は初めて、コンドームを着けずにセックスしました。
20って言いましたっけ。自分より二つ三つ年下で、黒服の人に最後に行ってね、と言われた雑居ビルに20はいました。
漫画家志望で同人誌に漫画連載をしててそっちでも収入あるって言ってました。
はじめに、エレベーターで会った時は、思ってたのと違うって正直(しょうじき)萎えたんです。ベッドまで行っても、私が乗り気じゃないようにしてると20の方からどんどん喋りかけられました。
所詮(しょせん)変態は変態としか結びつかないとか、私ね会った時はエッチすることだけに集中するって相手が居たことあるのとか、本当にそんな人らって居るんだなぁって思って聞いてました。
絵は自由に描けるけど、話のネタがないと漫画は描けないからそっちの方が大事とか、でも私にも時々神が降りて来るのよ、とかなんとか。
ゴルフ漫画の『風の大地』って奴が一番好きだなって言ってて、部屋は漫画喫茶みたいに漫画置いてあるって言ってました。
私ももうすぐこの仕事は辞めて、秋葉原でメイド喫茶で働くの、なんて言ってました。
突然でした。前戯も早々に、20の方からのしかかって来たんです。
私は声が上擦(うわず)りながら、ゴム、ゴムー、とか言ってました。
突然の出来事でした。セックスまでするなんて人生で数えても何度目かの出来事です。
いきなりコンドームもつけずに、焦りました。
病気とか気になったけど、もう世界がこれで終わってもいいと思って、最後は必死になって汗だくで抱き合いました。
ほどなく、射精を催(もよお)して、20に伝えると。ほんとにギリギリで身体を引き離し、外に出して、果てました。
セックスでイッたのなんて初めての経験でした。
21才の時です。初めて自分の身体は正常なんだって思えて思わず安堵したのと同時に感動しました。
不思議だったのは、そうすると20が好きな人に思えて来るんです。
身体が納得するというか、好きな人が誰だったのかわからなくなって来るというか、20に情がものすごく移りました。
私はセックスが終わったあと、正直、病気のことが気になりました。
本当、男らしくない奴です。言うと、20は膣内膜症だと言いました。
AIDSじゃないとわかってその場では安堵したのですが、痛くなかったのかなぁと、その後(ご)数日、20のことばかり考えてました。
ですが、結局、彼女を裏切ってとうとう行き着くとこまで行ってしまったと後悔します。
今回はお金もほとんどをすり減らせて、生活が頓挫(とんざ)しました。
このまま死んだら良いって思ってたんです。
私は懺悔(ざんげ)じゃありませんが、北へ北へと歩き出しました。
東京から仙台や気仙沼といった、家族の元へと歩きながら力尽き果てて死ねれば良いと思ったんです。
街を歩いて行く人達は奇異な目で私を見ました。頭も目も逝(い)っちゃってたんでしょう。
それでもお腹が空くと途中ファミレスに入ってコーヒーとパンだけで長居してしまったり、私が出て行くと店の人も心底(しんそこ)安心したようでした。
何、休憩取ってんですかね?タバコを吸うことも決して辞めませんでした。
そうして、夜になるまで歩いて、どこを歩いてるのかも何日歩いてるのかもわからなくなりました。
今振り返ればたぶん一日の出来事だったんでしょうけど、着いたのは埼玉の霊園でした。
暗くて人通りも無い夜の道をくたくたな身体で死ぬんだなんて歩いてるんです。
気味悪いと思います。でも、ここでも私は普通でした。
そのまま突き進むことはできなかったんです。死が直前まで迫ると怖くなって逃げ出しました。
財布には2000円ばかし入っていました。
やっとの思いでコンビニを見つけて、タクシーを呼んでもらいました。
最寄り駅まで乗せてもらってその時、運転手にいつから出て来たの?って聞かれて朝出て来たのか昼出て来たのか、一日経ってるのか経ってないのかわからなくて答えられなかったんです。運転手も気味悪そうにしてました。
電車で目黒にあった自宅までの運賃を調べると500円ばかしでした。
たったそれきりの逃避行でしたが、帰りの電車で乗り合う人ごみを眺めると、今までとは違う、何か異様な雰囲気を感じました。
尊厳が抜け落ちた人の塊に見えるんです。それこそゴミのように見えました。
だいぶ頭が参っていたんです。
家にやっとの思いでたどり着くと、疲れ果てて寝てしまいました。
お金も尽きたし、ほんとにこのまま死ぬのかもなと思って朝を迎えると、母が居たんです。
私はどうしようもなく、癒されました。
ぎこちなかったし、投げやりな態度でしか母と口を利けませんでしたが、ご飯を食べさせてもらって「帰ろう」とひとこと言われると、私は言われるままに東京を後(あと)にします。
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