大学時代19 2014-03-02

 散々書いてきましたが、それと並行して私の彼女に対する想いは鬱屈(うっくつ)し行き詰まり倒錯(とうさく)して行きました。


 彼女にコンドームを渡したこともありました。


 今考えると、訳がわかりません。それでも彼女はコンドームの包み紙に書いた私の手紙だけは抜き取って返してきました。


 もう頭もおかしくなってたんです。彼女と彼の間が深まって行く事と、私のどうしても彼女を諦められない気持ちと、諦めた方がお互いに取っていいんじゃないかという気持ちと、性欲を抑えられずにした過ちへの後ろめたさと後悔とで、私の内面はボロボロだったんです。



 O君の家に泊まることも多くなって、O君はO君の彼女の家に泊まってました。


 一人でO君家で山崎まさよしの『one more time one more chance』を聴いてボロ泣きしてました。


 いつでも探しているよ どっかに君の姿を ってとこが胸に迫って来て何度も何度も泣きました。



 ある日いつもの大学のテラスでタバコを吸って考えたんです。彼女はもう4年生でしたから、あとは卒業を残すのみとなっていたんです。


 私と彼女のいられる時間を手帳を片手に数えたんです。


 確か、100日ちょっとしかありませんでした。


 私は大学のある日にマルをつけて行って、数え終わった時、大粒の涙が溢れて来たんです。


 絶対後悔したくないってその時帽子を深く被って涙を隠してそう思い、立ち上がりました。



 私が考えたことは私の全てを彼女に伝えたいということでした。


 全力でもっとプレゼントしたいということでした。


 約束のコートもきちんと渡すんだってことでした。



 それからはもう、大学の通常授業なんてそっちのけで彼女に手紙を書きました。


 プレゼントも買いたいからマクドナルドのバイトの面接も受けました。


 コート作りにもいっそう力が入りました。



 また彼女の笑顔を咲かせたい、その一心でした。



 その時の2週間くらいですかね、時の流れ方が180度変わって、一日にこれだけのことができるのかと驚きました。


 人間本気を出せばなんでもできるんじゃないかと思った程濃密な時間を過しました。


 それはそれはただただ、彼女に捧げた時間だったんです。



 ですが、彼女の答えはノーでした。



 私はいつも、熟慮に熟慮を重ねて丁寧に手紙を書いていたんですが、彼女に一心になってからは、自分で何を書いたかも思い出せないようなことを延々書いたんです。


 ありのまま、そのままを訂正なしに、ぶつけたんです。量だけが膨大になりました。



 ロッカーを開けたら、私からの手紙がいっぱい。もうあなたのことがわからない。



 と一通、初めて携帯を買い直してから、彼女から入ったメールでした。


 彼女のアドレスも変わってました。私はその日のことは忘れもしません。


 人生で一番泣いた日です。すんなり、彼女にわかったとメールを返していたのですがもう、嗚咽(おえつ)して咽(むせ)び泣きました。半狂乱になってじっとしていられません。



 カップやきそばを作ってた時だったんですが喉を通るはずもなく、ゴミ箱に叩き付けました。


 夜も深まる中、私は犬の遠吠えのように、喉が嗄(か)れるまで泣きました。


 ひきつけを起こした子供みたいに泣きました。ただただ泣きました。


 あの時、背骨を割るように走った悲しみの痛みを忘れることはできません。


 何もかもが打ち砕かれた。そんな瞬間でした。



 たかだか、大学で恋に落ちて恋に破れただけのことです。


 端から見ればそうなのですが、私にとってはこんだけ大袈裟(おおげさ)に書いても物足りないくらいの出来事だったんです。



 私の人生は単純でした。


 サッカー選手になりたくて必死に頑張ったこと。


 デザイナーになりたくて必死に勉強したこと。


 彼女を好きになって必死に愛したこと。でも愛せてはいなかった。


 結局もう、生きる目的が彼女になってしまっていたのです。



 私は彼女に、風俗に行ったことだってあるとも告白しました。


 彼女が蔑(さげす)むような視線を最後に投げかけて来たことも覚えています。


 でもその視線には、大事な所に人を寄せ付けないような男性的な強さがあった。



 私は嫌われたけれど、彼女はきっと深い愛に到達して、いい恋愛をしてるんだなと思いました。


 私はメールで断りが入ってから、それだけで素直に立ち去ることはできませんでした。



 恨(うら)み辛(つら)みを書き綴った長文のメールを送りつけたり、それでも彼女は対等にメールで返してくれていました。


 でも私は長年の愛情が怒りや憎悪に変わっていく瞬間に立ち会うようでした。


 私は最後に言いたいだけ言って、着信を拒否して、携帯を逆パカして壊したんです。



 それからは精気を失って屍(しかばね)のようにアパートの天井を見つめるだけでした。


 もう廃人になって家に引き籠(こも)ったのです。


 結局、振られて稼ぐ必要がなくなったのでアルバイトにも行きませんでした。


 もうどうなってもいいってまた自棄(やけ)になっていたんです。

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